ネット上での誹謗中傷
インターネットの利便性は理解しつつも、インターネットを利用することに対して、不安を感じる人も増えている。不安を感じる原因としては、おそらく直接目に見えない仮想社会のことであるからと考えられる。本コラムにおいて、インターネット上での法的な問題をご紹介することにより、少しでもサイバー社会における不安を解消することができれば幸いである。
今回ご紹介するのは、ネット掲示板やブログ等での誹謗中傷等に対する対処方法についてである。
サイバー犯罪の推移
警察庁発表
警察庁が平成22年3月4日付けで発表した平成21年におけるサイバー犯罪の検挙状況等によると、不正アクセスや迷惑メールの犯罪が増加要因となって,過去最多を記録している。具体的には、検挙数が6,690件(前年比5.8%増)であり、そのうち不正アクセス法違反での検挙が2,534件(同45.6%増)、児童ポルノ関連法違反が507件(同99.6%増)、著作権法違反が188件(同30.6%増)となっている。

ITの活用に伴って国民生活の利便性が高まり、サイバー社会が国民の日常生活の場となり、また日常的な経済取引の場ともなってきている。しかし、上記のサイバー犯罪の検挙状況等にもあるとおり、ITを悪用した犯罪行為も増加してきている。
「治安に関する世論調査」
内閣府が平成19年2月に行った「治安に関する世論調査」によると、「犯罪に遭うかも知れないと不安になる場所」として「インターネット空間」を挙げた人が40.1%もいる。これは、「路上」「繁華街」に次いで多い数値である。また、上記調査において、「被害に遭うかもしれないと不安になる犯罪」として、「インターネットを利用した犯罪」(39.9%)や「振り込め詐欺や悪質商法などの詐欺」(41.4%)が、殺人・強盗等の凶悪犯罪(34.4%)よりも高い数値を示している。
ネット掲示板での誹謗中傷等への対処
ネット掲示板やブログ等が普及
インターネット上では匿名で情報発信をすることができることに安心し、ネット掲示板やブログ等において、いわれのない悪口を不特定多数の者に発信する事例が増えている。上記の警察庁の発表資料によると、都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口等に寄せられたインターネット上での名誉毀損・誹謗中傷等に関する相談は、毎年増加している状況であり、平成21年度においては、11,557件の相談が寄せられている。
例えば、「○○会社は経営状態が危ない。倒産は免れない。」等という虚偽の情報がネット掲示板に書き込まれて、それを見た取引先が契約の解除をしてきたような場合があると思う。このようなネット掲示板等での誹謗中傷への対処方法を考えてみる。
刑事的責任
刑事的には、業務妨害罪又は信用毀損罪(刑法233条)等が成立する可能性がある。業務妨害罪と信用毀損罪における「虚偽の風説を流布」とは、真実と異なった内容の事項を不特定又は多数の人に伝播させることをいう。また、「偽計を用いて」とは、人を欺き、あるいは、人の錯誤・不知を利用したり、人を誘惑したりするほか、計略や策略を講じるなど、威力以外の不正な手段を用いることをいう。
また、業務妨害罪と信用毀損罪は、抽象的危険犯とされているので、現実に信用低下の結果が発生しなくても、犯罪としては成立する(大判大5.12.18録22-1909)。
例えば、「○○会社は経営状態が危ない。倒産は免れない。」等という記載をネット掲示板に書き込んで、不特定又は多数の人が閲覧できる状態においた場合、それで犯罪は成立する。
なお、名誉毀損罪は、個人の社会的評価等を保護しているのに対し、信用毀損罪は、経済的・財産的な信用を保護している。
民事的責任
民事的には、人の社会的評価を低下させたり、人の経済的・財産的な信用を低下させた場合、不法行為に基づく損害賠償を請求することや(民法709条),謝罪広告(民法723条)を求めること等ができる可能性がある。相手方の追跡
しかし、民事的な責任を追及するためには、相手方の氏名・住所等の情報が必要になる(民事訴訟規則2条1項1号)。掲示板やブログ等への書き込みの場合、匿名でなされていることが多いため、そもそも、民事的な責任を追及する前提として、相手方の氏名・住所等の情報を調査しなければならない。これに対して、刑事告訴を行って刑事的な責任追及を行う場合、捜査機関に対して犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示があれば良いので、相手方の氏名・住所を特定できなくても、「氏名不詳」とか「何某こと氏名不詳者」等とすることができる。ただし、一定程度、犯罪事実の発生を警察に理解してもらえないと、警察に動いてもらえないことがある。
よって、実際上、自ら相手方の氏名・住所等の情報を調査する必要がある。
(1) インターネット接続においては、TCP/IPというネットワークを介してコンピュータ同士が通信を行なう際の約束事のようなものがあり、原則として、自分のIPアドレスは、通信相手のコンピューターに伝達される仕組みになっている。
例外として、複数のサーバーを介して、掲示板があるコンピューターにアクセスしている場合、当該掲示板があるコンピューターにアクセスした直前のサーバーのIPアドレスが伝達される。もっとも、順次、サーバーを辿っていけば、最終的には自分のIPアドレスが判明することになる。
そして、このIPアドレスは、利用者が契約しているプロバイダーが自動的に割り振るものであるから、当該契約先のプロバイダーにおいて、IPアドレスから契約者の氏名・住所等の情報を特定することができる。
(2) そこで、掲示板やブログ等に書き込まれた日時と当該掲示板等があるコンピューターのアクセスログとを比較し、誹謗中傷等の書き込みをしたコンピューターのIPアドレスを特定する。そして、そのIPアドレスを管理しているプロバイダーに対して,発信者情報開示請求を行うことになる。
これで発信者が特定できれば、民事・刑事の各手続きへと移ることになるが、開示された情報がまた別のプロバイダーであった場合、再び、そのプロバイダーに対しても,同じように発信者情報の開示請求をすることになる。これを発信者が特定できるまで繰り返すことになる。
もっとも,このように順次プロバイダーを辿っていくためには、各プロバイダーにおいて、アクセスログが保存されていることが前提となる。大手のプロバイダーの場合であれば、3か月から半年くらいのアクセスログが残っていることが多いようであるが、小規模なプロバイダー等の場合、アクセスログの保存がなされていないことがある。その場合は,それ以上の追跡ができなくなる。
(3) ただ、最終的なプロバイダーのところまで到達しても、個人情報保護の観点から、すぐに発信者情報を開示してくれる訳ではなく、訴訟等によって勝訴することを前提に開示するということになる。訴訟を起こした場合、早くても2か月、平均して6か月程度で終わるようである。
複数のサーバーを介して掲示板のあるコンピューターにアクセスしているような場合、順次、サーバーに対する発信者情報開示のための訴訟を行う可能性があることから、アクセスログの保存期間の観点からも、迅速に作業を行う必要がある。
ところで、発信者がネット・カフェから発信していた場合、判明するのは当該ネット・カフェのIPアドレスと接続日時までである。それから先の調査については、当該ネットカフェ側がアクセスログを保存していることを前提とし、かつ任意の協力を得るか訴訟等を起こして利用者情報を得るか等により、発信者を特定する必要がある。
なお,海外のサーバーを経由した発信者については、諸外国との統一条約等を設けない限りは、その後の追及が困難という問題は残っている。
まとめ
以上のとおり、ネット掲示板での誹謗中傷等への対処方法等について述べた。もしかしたら、これらの対処方法は面倒であり、だからサイバー社会は危険だ等と考える方もいるかもしれない。しかし、現実社会の場合を考えてみていただきたい。例えば、同じように「○○会社は経営状態が危ない。倒産は免れない。」等というチラシを大量にばらまかれた場合、現行犯逮捕される場合や目撃証人等がいるような場合でないと、実際上、相手方に対する責任追及をすることは難しいと考えられる。
これに対して、サイバー社会の場合、アクセスログという足跡のような証拠が残ることから、それを追跡することによって、現実社会の場合では捕らえられない相手方に対しても、責任追及をすることができることがある。
もちろん、現実社会とサイバー社会とでは、それぞれ一長一短あるので、今後我々は、両方の社会と上手く付き合っていくことが必要と思われる。これを機にサイバー社会への食わず嫌いの意識を改めていただければ幸いである。
以上
※上記記載事項は、あくまでもコラム発表当時における当職の個人的見解であります。案件によって対処方法は異なるため、内容の保証までは致しかねます。ご注意下さい。
<参考>
「プロバイダ責任制限法 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」
プロバイダ責任制限法 発信者情報開示関係ガイドライン」
















