人と人とのつながりを深めるために無線通信という切り口で貢献していきたい PicoCELA(株) 井上聡志さん

人と人とのつながりを深めるために無線通信という切り口で貢献していきたい PicoCELA(株) 井上聡志さん

起業 中小企業応援センター事業

井上さんは、九州大学大学院の古川教授の無線中継技術をもとに、無線中継機能付きアクセスポイントを事業化するべく、2008年8月に会社を設立されました。

製品化にかかる多額の資金を日米のベンチャーキャピタルから調達しようとしている最中にリーマンショックに見舞われ、ベンチャーキャピタルからの投資はかなわなかったものの、国のプロジェクトの受託や研究開発助成金の交付などにより製品開発資金を確保し、研究開発型ベンチャー企業に立ちはだかる「死の谷」という関門を乗り越えられています。そして、次なる「ダーウィンの海」という関門を乗り越えるべくベンチャー企業ならではのスピード感を持ってWi-Fi市場の成長とともに波に乗ろうとされています。

2011032801.jpg

-創業までの経緯を教えてください。

大学卒業後は大手通信機器メーカーで、ネットワーク関係のソフトウェアのエンジニアを7年ほどやっていました。辞める1年くらい前に九州大学ビジネススクールに入学して、在学中に九州大学の知的財産本部で起業支援部門にて、ベンチャー支援業務に1年半くらい携わらせていただきました。

その時に当社のCTO(最高技術責任者)でもあり、無線中継技術の発明者である古川(浩)教授と会って、知的財産本部を1年半で辞め古川教授と一緒にプロジェクトをやり始めたという感じですね。

文部科学省の知的クラスター創成事業に福岡県の「福岡先端システムLSI開発拠点構想」が選定され、(財)福岡県産業・科学技術振興財団(ふくおかIST)が中核団体となった24のプロジェクトが立ち上がりました。

その中の1つが古川教授の「MIMO-MESHプロジェクト(※)」で、古川教授が研究代表、私がプロジェクトリーダーという形で2007年7月にプロジェクトが立ち上がりました。

(※)MIMO-MESHプロジェクトとは
MESHネットワーク(*1)を構成する各基地局にMIMO(*2)を適用し、設置すれば即ブロードバンドエリアを構築出来るようなシステムの研究開発を目的としている。
*1 MESH(メッシュ)ネットワークとは、無線通信機能を持つ基地局が相互通信を行うことで構築されるネットワーク。
*2 MIMO (Multi Input Multi Output)とは、複数のアンテナでデータの送受信を行い、伝送速度を向上させる無線通信技術。

このプロジェクトの中で、今までシミュレーションベースだったものを、試作品のレベルまでもっていきました。これが2008年2月くらいで、その後半年くらいかけて市場調査をしながら、「これ事業化いけるかな」という手応えがあったので、2008年8月に弊社を設立したという形になります。

実は私、3代目の社長なんですよ。初代の社長はシリコンバレー在住の方だったんですね。

なぜその方だったのかと言うと、設立が2008年くらいですから、日米で同時に事業を立ち上げて一気にグローバル展開しようと、そして、そのための資金はアメリカのベンチャーキャピタルから調達しようと思っていたからなんですよ。それで、シリコンバレー在住で、ベンチャー企業にも造詣が深いということで、その方に社長をお願いしたんです。

でも、その直後の2008年9月15日にリーマンショックが起きまして、我々の事業計画が甘かったと言うのもあるんですけど、リーマンショックのあおりを受けてベンチャーキャピタルからの資金調達は出来ないよね、ということになったんです。それだったら、アメリカで一気に立ち上げるのは難しいよねということで、じゃあ、まず国内でやろうかという話になりました。

それで初代社長からから1回、古川教授にバトンタッチしています。でも、古川教授も九州大学の教授と兼業でしたので、私が代表に就任したという経緯です。

それが2009年10月になります。古川教授が社長の時の体制というのは私がCOO(最高執行責任者)でしたので、代表に就任したことで、実務的に何かが変わったということはないです。

-事業化の手応え以外に創業しようと思われたきっかけはありますか?

私も古川教授も「地域、福岡で最先端のことをやっているIT企業がもっと増えれば良いよね」という思いがあります。

なぜかというとIT業界というか、他の業種もそうなんでしょうけど、東京一極集中じゃないですか?古川教授の生徒も卒業したら東京にしか目が向いていないそうです。なぜかというと、福岡で働いている人も東京の下請けだったり、孫請けだったりしているんですよね。九州発で面白いことやっている企業ってあるんですが、まだ数は少ないし、そういった人の受け皿がないのが現状です。「僕らで受け皿を一緒に作ろうよ」という思いを古川教授と共有して、一緒に創業したという経緯があります。

-社名の由来を教えてください。

社名はPicoとCELAの2つの単語をつけた造語なんですね。

Picoがマイクロ、ナノ、ピコ、フェムトという小さい単位からきていて、小さいという意味なんですね。CELAというのがセルラー(cellular)のラテン語で、小さいエリアを積み重ねていくセルラーですから、通信事業者という意味なんですよ。

本当はPicoCellularという名前にしようと思っていたんですけど、呼びやすい形ということでPicoCELAにしました。

-創業の準備はどのようにされましたか?

資金は4人の創業メンバーで集めました。借入はしていません。ただ、通信事業というかインフラ関係の事業なので、莫大な資金がいるということで資金調達をしようとしていたのも事実です。

資本金1,000万円を身内で集められても、1億円、10億円という資金は集められないからです。

ビジネスプランは2008年8月の創業時に初代社長が中心になって創業メンバーで5年間の事業計画を立てました。それを元にベンチャーキャピタルからの資金調達をしようとしました。

2008年8月から2009年の春先くらいまではひたすら資金調達で、ベンチャーキャピタルさん回りでした。でも、2008年9月にリーマンショックがあって、これでは調達出来ないと判断し、2009年の5月くらいにベンチャーキャピタルさんからの資金調達活動は1回止めています。

それで国のプロジェクト関係とか、研究助成金とかにいろいろと申請させていただいて、製品化のための資金調達をしたというのが現状です。

人材については、最初は創業メンバー4人だけで始めました。2010年1月にやっと製品化まで辿り着けたんですね。だからそこからの営業キャッシュフローや借入とか、緊急雇用対策の助成金で人材の方は増やしていっています。

創業時のオフィスは百道浜のLSIセンターで、インキュベート施設です。

もともとこの知的クラスター創成事業の中核機関であるふくおかISTさんが管理されている施設というのもありますし、研究開発のインキュンベーションとして定評がありましたので、そこに入居させていただいて、製品化が終わる2009年12月までそこに入居しておりました。

-資金調達はベンチャーキャピタルからの投資中心で考えていたのですか?

ベンチャーキャピタルだけです。借入という選択肢はなかったです。

というのは、創業直後の会社が何千万円だったり、億を超えるようなお金を借りられるというのは現実的にないと思っていたので、選択肢としては一切考えていなかったです。

-事業内容を教えてください。
 
弊社の事業は無線中継機能付きWi-Fiアクセスポイントを企画/開発/販売しており、パートナー企業様と連携し、Wi-Fi(無線LAN)空間の構築、及び、その空間を活用したサービスの提供を行っています。

2011032802.jpg

もともと古川教授の技術自体が無線中継に関する技術になります。iPhoneを始めとするスマートフォンではWi-Fiというところが注目されていますけど、Wi-Fi機器ってどうしても有線ケーブル(青いインターネット線)を1本つないで、その先に機器が接続されているんですね。

機器に対して有線ケーブルと電源線が1対1で数十メートルの空間が出来るという仕組みなんです。

例えば、ここの部屋にWi-Fi空間を作って、隣の部屋にもWi-Fi空間を作ろうとしたら、電源工事とインターネットのケーブルの工事が必要なんです。

2011032803.jpg

そうすると工事ができないとか、工事費用が結構かかってしまうとか、機器代というよりもそういった工事代とか、どこに設置するかという交渉費とかそういった見えないコストとか、他の付随コストの方が高いんです。

そういったところを減らしたらWi-Fi空間というのは、よく広がるんじゃないかなというのがそもそものきっかけというか、狙っているところです。

今まで3箇所工事が必要だったのを1箇所に減らしたら工事費だったら3分の1に減るわけじゃないですか。今まではその工事費が高かったり、工事が出来ない場所という制約があったので、Wi-Fiの空間というのは「ホットスポット」って、「点」って言われていたんですけど、それをなくしてあげれば「ホットエリア」になりますよね。

携帯電話と同じようにどこでもWi-Fiの空間が使えたら、ユーザーは「ここでは使える」「ここでは使えない」というのを意識しなくていいようになるので、そういった社会や空間を作りたいというのが大きなところですね。

2011032804.jpg

2011032805.jpg

なぜWi-Fiを選んだかというとゲーム機にも搭載されている、スマートフォンにも搭載されているという枯れている技術(不具合などが出尽くした安定している技術)で、ハードウェアも安価に手に入るというところからです。

もうユーザーが手に持っているので、新しい通信機器、たとえばWiMAXとか出ていますけど、WiMAXの通信のためにユーザーに買い換えさせるというのを避けたいというのがあって、すでに出ているWi-Fiという規格を選んだというのがあります。

今スマートフォンがあれだけ流行っていて、Wi-Fi機器が市場的に伸びているので、ちょうどいい時期になってきているなと思います。

あとは、弊社の機器は通信機器だけじゃなくて、サーバーみたいにプログラムを実装(組み込むこと)できるというか、開発できる基盤を搭載しているんですね。そこでパートナー企業様にWi-Fiを使ったサービスを弊社の機器に実装してもらうことができます。

通信機器だけですと、「土管」となり、ただデータを通すだけなんですね。そこに弊社としては開発のプラットフォームを搭載することによって「通信+サービス」というところまで提供させていただくというのを狙っているんですね。

2011032821.jpg2011032822.jpg

-具体的にはどのようなソフトやサービスになりますか?

キャナルシティ博多さんでもやらせていただいていたのに近いイメージとなるんですが、iPhoneなどWi-Fiの電波を出している端末は固有IDを持っていますので、その固有IDの端末がどこにあるか、どう移動したかというのがわかるというものです。

前提条件として弊社の機器がその空間をくまなく作っている必要があるんですけど、その中をどう動いたかというのがわかる、どこにいるかがわかる、ということでマーケティングデータに役立てるというものです。

マーケティングで言えば、「買った人がどういう動線を通ったかではなくて、買わなかった人がどういう動線を通って、建物の外に出たかの情報」というところもご提供できます。

他にも、こちら側からWi-Fiを使ってコンテンツを強制的に配信(Push型)するというソフトウェアも実装しています。

例えばiPadとかを持っている人が教室に入ってくると、その教室の場所と時間がサーバーとこの機器側でわかるので、入ってきた人に対して例えば、講義だったらその日のレジュメだったりシラバスなど、カンファレンスだったらその日の資料のサマリー、会議だったらその日のレジュメというのを強制的に送るというものです。

iPadとかの機器の電源をオンにして画面を見たらすでにその資料を手元の機器で見ることが可能ですので、ペーパーレスカンファレンスとかペーパーレス会議というのを企業さんにご提案させていただいたりしています。

-他社製品との差別化のポイントがあれば教えてください。

一番大きなところは、無線中継機能が付いているというところです。もう1つはLinuxを搭載していますので、弊社はもちろんですがパートナー企業様にもいろいろサービスを開発していただけるというところと、コスト的にも他社様に比べて安いというところが上げられます。

Linuxを搭載するために単にハードウェアを1個増やしているので、価格も当然上がってくるのですが、他社さんに比べて弊社は余分にハードウェアを積んでいるにもかかわらず、総合的にプロダクトとして見るとそれでも安いので価格優位性があります。

弊社はコアコンピタンス(他社に真似できない企業の中核となる能力)の技術をソフトウェアに集約しています。ハードウェアに関しては特注品は一切使わずに市場で手に入る製品を組み合わせているというようなイメージなんです。

こういった通信機器ですと、例えばアンテナに凝ったりとか、ハードウェアに凝る他社さんもいらっしゃるんですが、そうしてしまうと汎用性がなくなったりとか、納期の問題とか、価格が高くなったりとかするので、弊社はハードウェアにはこだわらずに、ソフトウェアに注力しているというのが立ち位置になります。

-Wi-Fiの市場は現在どのような状況ですか?

一回成熟しかけて、横ばいになって、また今成長しようとしている市場ですね。2000年前後に1回、Wi-Fiって騒がれたんですよね。でも、セキュリティの問題とかいろんな課題があって、普及しなかったんです。今は必要に迫られて市場が伸びている感じですね。

-ターゲットはどのようなところになりますか?

大きな枠で言うと、人が集まる施設とかなんですよ。企業で言うと、一番大きなお客様はやっぱり移動体の通信事業者さんですね。その次がインターネットサービスプロバイダー(ISP)様ですね。この辺りというのは、ビジネスの規模として大きいんですけど、案件をクローズするのに時間がかかってしまいます。

ですから、そこを狙っていっても日頃のキャッシュフローが回らないので、やっているのはそういう大型、中型案件を進める一方、並行して例えば、どこかの商業施設やショッピングモールやホテルを1棟Wi-Fi化するとか、4階建てくらいの病院をWi-Fi化するとか、小学校をWi-Fi化するとかをしています。

あと、デジタルデバイド(インターネットなどITの恩恵を受けることのできる人とできない人の間に生じる経済格差)とかの解消とかに役立ちそうだねと言われるんですね。「農村とかどうですか?」とか、「山の上とかどうですか?」とか、「離島とかどうですか?」って言われるんです。

確かにそこも魅力的ではあるんですけど、今の企業体力としてそこに行けるかというと、自社努力だけでは行けないですね。確かにそういうところでやらせていただきたいという思いはあるんですけど、もう少し企業体力が付いてからですね。

-どうやってお客様を増やして来られましたか?

基本は紹介ベースです。それと、露出するというところです。

ベンチャー企業の社長はその人が広告塔なので、地元で行われているベンチャー関係のネットワーキングの会に出させていただいたりしています。人脈作りというところにはすごく気を使いますね。

そういうところで古川教授が講演させていただいたりとか、私がそういった会合に出たりとかして、話していく中でひょんなところでつながっていきましたね。初めから狙っているところに行けたというのは、なかなかないんですけど。

それと福岡市の「福岡市ステップアップ最優秀賞」もそうですし、ISIT 九州先端科学技術研究開発表彰の「IT企業大賞」もそうですし、フクオカベンチャーマーケットの「FVM大賞2011 優秀賞」も露出の一環ですね。

2011032809.jpg

展示会とかでもいいんですけど、お金がかかってしまうというのもあるので、なるべくコストを抑えて露出するようにしています。

-ビジネスの手応えはいかがですか?
 
ビジネスの手応えとしては非常にあります。当初考えていたスピード感よりは遅れてはいます。

ただ、遅れたのが良かったのかどうかわからないんですけど、iPhoneとかスマートフォンの勢いが凄いですよね。それによってWi-Fiというのが2000年くらいに出てきて、一回縮小しかけた時の悪いイメージが払拭され始めているというのがあります。

10代とか20代とかの人たちがWi-Fiという言葉を普通に使うようになっていて、Wi-Fiという言葉の浸透率が増えてきていますし市場が伸びていますよ。

市場が伸びている時ってやはりそこに関わっているとどうしても案件も増えてきます。

だから今かなと思います。今伸びている時にこの波に乗れるかどうかというのがここ半年、1年だと思うんですよね。波に乗らなければ、組織として大きくなれないですからね。

-苦労されたのはどのようなところですか?

これはどこの企業さんでもあると思いますけど資金調達ですね。まず製品を作るためには、ソフトウェアに注力しているといっても、そのソフトウェアを搭載するハードウェアも弊社で作っていますので、その資金調達で苦労したというのがありますね。

あとは通信インフラに近いところになっているので、実績をとにかく問われた時に苦しかったというのがありますね。だから試作品の時は「製品化できるの?」という開発リスクをベンチャーキャピタルさんに言われましたし、製品化したら次は企業さんに「これどこで運用実績があるの?」って言われて進まなかったですね。

-まさに「死の谷 *1」と「ダーウィンの海 *2」ですね。それぞれどのように乗り越えられましたか?
*1 死の谷とは、研究成果が実用化されて、製品化されるまでの関門で、開発コストがかさみ、資金が尽きて製品化に至らない状態

*2 ダーウィンの海とは、製品化されてから実際の事業として軌道に乗せるまでの関門で、製品化されても、既存商品や競合企業を相手にした競争が待ち受けている状態

だからベンチャーって言われているところを全て地で行っているという感じがしますね。

「死の谷」と言われる製品化の関門ついては、幸運なことに知的クラスターとかで技術は確立していて元になる技術があるので、製品化というところにはそんなに苦労はしなかったんですね。

ただ、いろんなお客様からここはもうちょっと小さくした方がいいとか、アンテナが不細工だとか散々言われるんですけど、それはやっぱり当時集まったお金の中でやれる最大限のところだったんですよ。

「ダーウィンの海」と言われる持続可能な事業になるまでの関門については、どうしても実績を問われますので、やはり総務省の「ICT先進実証実験事業」に採択されて、キャナルシティ博多さんで実証実験を行った実績が大きかったです。

今期の上期は3台とか5台の小口案件をコツコツ積み上げていたという段階ですので、ほとんど売り上げはなく厳しかったです。

しかし、下期になるとキャナルシティ博多さんの実績とかが大分浸透してきたりとか、積み上げてきた実績というのがだんだん積み重なってきたので、下期になってからいろいろ大きな案件とかの引き合いが増えました。

今期の下期に期待している大きなものが3つくらいあって、それをクローズできるかどうかで今年度、来年度が変わってくるというのがあります。だから、今は楽しい時ですね。

-人の採用については苦労されましたか?

人は苦労しました。

まず、弊社は恵まれている方だと思うんですよ。九州大学の技術を活用させて頂いているとか、福岡県さんの事業(福岡先端システムLSIクラスター)で研究開発させて頂いたとかですね。

そういったところで、他社さんに比べて恵まれている部分があるんですけど、さすがにベンチャー企業で実績もそれ程出ていない企業に、人が集まるというのはなかなか難しくてですね。

ただそうは言っても、ソフトウェアとか技術で売っている企業なので、スキルの高い技術者が必要なんです。やっぱりそこのギャップですよね。どうやって集めようかなとか、なかなか来てくれないんじゃないかな、というところでは非常に悩みました。

今の採用活動では学歴は問わないです。成長は一緒にしていきたいですし、一緒に夢を追って欲しくて、「不安定なところのベンチャーで一緒にやってもらえるようなパッション(情熱)を持っている人」を集めています。

今はまだ数名ですけど、組織なので10名、20名くらいまではやはり同じ方向を見て一緒に仕事できる人、気持ちいい人じゃないと多分仕事できないんですよ。

「悪貨は良貨を駆逐する」って言うじゃないですか?異分子じゃないですけど、何かやりづらいなという人が入ると3~4人の時ってすぐ伝播して組織が腐ってしまうので、そこは気をつけていますね。

だから採用面接では常勤のスタッフ全員と面談なんですよ。試験とかは一切しないんです。スタッフ全員と候補者、その後に我々役員面談という形で2回面談するんですよ。それで、スタッフに「どうだ?人間的に?」という感じですね。

2011032823.jpg2011032824.jpg

-創業して良かったことはどういうところですか?

会社的にはこれからなんですけど、同じ方向を見て一緒に仕事を出来る仲間に出会えたのはいいですね。それは非常に思います。

今、こんな会社にもったいないくらい優秀な仲間ばかりです。むしろ自分より能力の高い人ばっかりに囲まれて仕事しているというところが嬉しいんですよね。

2011032811.jpg

一番大きなところは、今までサラリーマン時代には考えられなかった人たちと話して、その人たちと切磋琢磨していける。だから毎日会う人、会う人が自分より優れている人ばかりで刺激になるので、日々自分が成長できるし、会社としても成長できるというのがあります。

それに自分で事業をやっていると生きているという感じがします。

判断して、決定して、それを実行していくというのを経営者って負っているわけじゃないですか?だから他の人が絶対し得ない苦労もするし、喜びも味わえるんですよね。だから本当に自分で生きているというか、楽しいですね。

-現在の課題はどのようなところですか?

少ない経営リソースの配分ですよね。理想が見えているじゃないですか。こう行きたいというところに対して、人もお金もない。その中でどうやって回していくかなというところが課題ですね。

引き合いをもらっているビジネスに対して、こちら側の手持ちのリソースが少ないので、もう少し人がいればなと思います。

デモシステムでもそうなんですけど、あともう1歩ここまで見せられれば受注が取れるのにな、というのがありますからね。

私の中の大きな課題というのは大型案件と日々の小口案件のバランスをどうしていくかなんです。

キャッシュをどう回していきながら大口を取るかというところですけど、大口を取らないと中長期的には伸びませんし、組織も大きく出来ないですよね。

ただ、大口というのは受注確度が徐々に上がっていくものなので、人をどのタイミングで雇用するか、それは自分がリスクを取るというか、アクセル踏み込んで雇わないと、受注を取ってから雇っていたんじゃ間に合わないので、その辺がやっぱり課題というか自分が悩んでいるところですね。

大口を取れなかった時にその人をどうやって継続雇用するの?っていう話になりますからね。

2011032812.jpg

-これからの目標を教えてください。

国内で今年度、来年度上期あたりまでに実績を出したいなと思っています。

やっぱりWi-Fi事業自体がここ1、2年くらいで盛り上がってきているので、ある程度覇権を取る企業も出てくると思うんですよ。国内でその主流の方に入っていたいですね。メインストリーム(主流)に食い込む、できればトップを行きたいんですけどね。

国内はそういう感じなんですけど、近い将来、アジアで実績を積みたいですね。

確かにアメリカにも行こうと思えば行けるんですけど、市場として面白いのは伸びているところなので、アジアの新興国、今からインフラを敷設するところをやりたいなと思っています。

タイには2010年10月に行ってきました。2011年はインドネシア、タイ、シンガポール、ベトナムに行きたいですね。その辺の新興国で実績を積みたいなと思います。

-夢はありますか? 

100年存続する企業を目指しています。ベンチャー企業の場合は企業が残るのか、事業が残るのかというのはあると思いますが、地域に根ざして存続し続ける企業にしたいというのもありますし、国内に閉じたくないんです。

福岡を本拠地にして、グローバル(アジア)でビジネスをしている企業、アジアで存在感のある企業になりたいです。

それに他の方も言っていますけど、いつまでたってもシリコンバレーを見ていても仕方ないので、福岡にいてもシリコンバレーに匹敵するような面白いことがやりたいんです。

国内で言うと、東京一極集中で東京に行けば、ヒト、モノ、カネ、情報とか全部集まっているというだけでなく、福岡で面白いことをやっている企業もあるよね、というのを作りたいんです。

だから、シリコンバレーを羨ましがるんじゃなくて、じゃあそれを自分で作ればいいじゃないという話なのがそもそもの創業した発想ですよ。

福岡というか地域で面白いことをやっている企業をとにかく増やしていきたいというか、僕らが言う話じゃないですけど、次の世代、今の20代とか10代とかの選択肢が増えていればいいなと思うんです。

起業するという選択肢もそうですし、就職して最先端のことをやりたいんだったらシリコンバレーという一箇所ではなくて、東京であったり、福岡であったり、シドニーであったり、ロンドンであったり、選択肢がたくさんある状態が理想であり、その中の1個の選択肢を増やしていきたいなと思います。

【レポーターのコメント】

創業したばかりのベンチャー企業の場合、一般的にヒト、モノ、カネなどの経営資源が潤沢でなく、創業者が思い描いた事業計画通りの経営ができにくいのが現状です。

また、研究開発型のベンチャー企業の場合、自社の持つ技術から製品化し、それを事業として成り立つようにするまでにはいくつもの関門があります。

その代表的な関門が「死の谷」「ダーウィンの海」と言われる関門です。

「死の谷」とは、研究成果が実用化されて、製品化されるまでの関門で、開発コストがかさみ、資金が尽きて製品化に至らない状態です。

「ダーウィンの海」とは、製品化されてから実際の事業として軌道に乗せるまでの関門で、製品化されても、既存商品や競合企業を相手にした競争が待ち受けている状態です。

ですから、「死の谷」を乗り越えるためには多額の資金が必要になります。

井上さんは当初、日米のベンチャーキャピタルからの投資を受けて、製品も日米で販売するという事業計画を立ててありました。しかし、創業直後に起こったリーマンショックの影響によりベンチャーキャピタルの投資意欲が減退して、当初の計画通りには資金調達が進まなくなり、計画変更を余儀なくされています。

実際に、財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)の調査によると2009 年度に行われたベンチャーキャピタル等によるベンチャー企業への投融資額は875 億円で、ピークの2006 年度の2,790億円からは約7 割も減少しているとのことです。

井上さんはベンチャーキャピタルからの資金調達ができない中で、「死の谷」を乗り越えて製品化に辿り着くために、自社の技術を武器に国のプロジェクトなどの受託で開発資金を調達されています。また、自社のコアコンピタンスはソフトウェアの部分にあることを見極めたうえで、ハードウェアは標準品を使って低価格に抑えて開発費が枯渇するのを防ぎ、死の谷を乗り越えられています。

また、ベンチャー企業の製品の場合、会社の知名度も低く、なかなか採用につながらない上に、当社のような通信インフラ製品であれば特に実績が重要になり、採用に当たっては実績を問われることになります。

そういった中、「ダーウィンの海」を乗り越えるために、国のプロジェクトなどで実績を作るとともに、福岡市ステップアップ助成事業へのビジネスプランの応募で最優秀賞を受賞されたり、フクオカベンチャーマーケット協会の2010年FVM大賞を受賞されたりと、コストをかけずに会社の知名度を上げる取り組みをされ、徐々に受注を増やしながらダーウィンの海を乗り越えようとされています。

日本経済の成長と活性化には、新しい技術やビジネスモデルを有し、大きなビジネスリスクをとって新規事業に挑戦するベンチャー企業の創出・成長が不可欠であると言われています。

井上さんにはぜひ福岡に優秀な学生が残るような最先端の事業で地域経済の活性化に貢献していただけたらと思います。

大串明子

レポーター:大串 明子(おおぐし あきこ)

中小企業診断士、1級販売士、経営学修士(MBA)

外資系コンピューターメーカーでコンサルティングやシステム構築に携わり、その後、投資会社で経営管理実務を経験。2008年に独立・開業し、経営コンサルタントとして活動している。九州大学ビジネススクールで、IT系ベンチャー企業における内部資源の活用にもとづく成長戦略について研究し、現在も福岡市のインキュベートアドバイザーなど創業支援を中心に、事業計画の策定や経営革新計画の策定など中小企業の支援を行なっている。
PicoCELA(株)

福岡市博多区博多駅前3-6-12 オヌキ博多駅前ビル5階

TEL:092-474-3800

業務内容:
情報通信システムの企画、開発、販売及び保守、情報通信システム並びにソフトウェアの企画、制作、開発及び販売、通信・情報処理機器の開発、製造、販売及び輸出入、知的財産権に関する売買及び実施又は使用権許諾の仲介

参加募集中のイベント

お問い合わせください
募集中イベントについては、窓口までお問い合わせください。
電話 092-441-2161 まで

関連記事

記事ランキング