福岡市内で3箇所の無認可保育園【リトルワールド】を運営する有限会社Branchesの代表取締役社長の権藤光枝さんは、創業以来ユニークな事業展開で幾多の苦労を乗り越え、今もなお創業精神を大事にしながら大きな夢に向かって事業拡大を目指しています。
――どのようなきっかけで創業されたのですか?
私は10数年前、娘を抱えながら働くワーキングマザーでした。
生活していくには働く必要があり、その間はどうしても娘を預けなければなりませんでした。そのために託児所を数件まわりましたが、そのころの託児所は、暗くて狭く、安全性が疑わしいもので、預ける立場としてはとても不安を感じました。
このことがきっかけで、
「大切なわが子を安心して預けられるところがほしい! 無いのなら私が作ろう!」
そう強く思い、無認可保育園の創業を考えました。
――創業に際していろいろ苦労されたと思いますが・・・
開業資金についてですが、お金を借りるということの怖さを実感していましたので、自己資金をためてから開業することにしました。なので、開業資金をつくるために子育てしながら朝から夜まで2つの仕事を掛け持ちして正月も休み無しで働き、最終的に2年間で500万円ためました。
実際に園児たちをあずかる園の設備や内装については、私の熱意を理解してくれた内装業者さんがかなり支援してくれたので助かりました。
今ではパソコンが使えるのが当たり前のようになって、ソフトを使って経理や確定申告が楽に出来るようになっていますが、開業当時は自分でパソコンも扱ったことがなかったし、会計の知識もなかったので自分で本を買ってきて必死に勉強しました。
もちろん、わが子を安心して預けれるような保育所を作ることが目的でしたが、それを継続していくためにもビジネスとして成り立たせたいと考えていました。
なので、当時、無認可保育園は様々な基準を満たした認可保育園に比べて信頼性が低いと思われていましたので、私は無認可保育園でしかできない自由度が武器だと考え、働く母親のさまざまな保育条件の要望に合わせることで、認可保育園ではできない保育内容を徹底して研究しました。そのために、ターゲットとなる子供を持つお母さん達がどんなことを重視し、どんなことがニーズとしてあるのかをヒヤリングしました。
仕事を持つ同世代の母親たちと同じ目線で、自分の子供を安心して預けれる、自分の理想の保育の仕組みを作ろうと思い、具体的には働く女性をターゲットに24時間保育ということで計画しました。

――開業当時の保育園の運営はどうでしたか?
無認可という響きやPR不足により、最初は3人のお子さんを預かることからスタートしました。
園児募集には昔からの友人達5人が10000枚の保育園の案内を各家庭にポスティングするのを手伝ってくれました。このときのチラシも友人の1人がデザインしてくれたものです。
こういった周りのサポートを得ながら、一生懸命に自分だったらどんなサービスがあったらいいだろうと試行錯誤して保育園を運営していくことで、少しずつではありますが当園を利用してくれるお母さん達が増えてきました。
また、運営して初めてわかったのですが、認可保育園に入れなくて順番待ちの子供がいて、順番が来るまで預かってほしいというニーズもありました。
また、保育内容についてですが、私としては託児所ではなく保育所を作りたいと思っていましたので、認可保育所のように園庭があったり、立派な設備はないけど、子供を保育するという内容において絶対に負けないようなものをつくりたい!と考えていました。
この頃は私自身、開業してなれない仕事に追われて、自分の子供と過ごす時間がほとんどなかったので、自分の子供もリトルワールドで保育していました。自分だったら、自分の子を預かってもらうだけでなく、その間にいろんなことを自分の子供には学んでもらいたいという思いから、クッキング、遠足、田植え体験、英会話、スイミング、体操などを保育プログラムに組み込んでいきました。
最初の3年間くらいはお金の面でもそうですが、体力的にも精神的にもきつかったです。
――失敗や苦労の経験などがありましたら教えてください。
他の先生などと一緒に保育のプログラムを考えて「外遊び」の一環で公園に連れて行って遊ぶこともしました。
そのときに、遊具が壊れててお預かりしたお子さんを骨折させたことがありました。
大事には至らなかったのですが、それ以来、子供達が公園で遊ぶ前にはスタッフ遊具のチェックをするようにして同じような事故が起こらないようにしています。
また、お預かりしたお子さんが骨折で毎日通院が必要でしたので、お仕事で忙しいお母さんの変わりにスタッフが交代で毎日子供を病院に連れて行きました。
このことがあって以来、どのようにしたら病気や怪我が発生してもすぐに対応が出来るのか?スタッフで話し合いを重ねていき、今ではしっかりと体制を整えています。
また、こんなこともありました。
当保育園は24時間体制で保育園運営を行っていますのでスタッフもシフト制です。
ですので、朝、お子さんを預かったスタッフと夕方にお子さんを引き渡すスタッフが違うことがありました。
そのときに
お母さんより「うちの子はどうでしたか?」と聞かれて
スタッフは「今勤務についたばかりだからわかりません・・・」は答えました。
利用していただいてるお母様からお叱りをいただきました。
このことがあって以来、内部でミーティングを何度も開き、お母さん達が知りたいことは自分が見てないときの子供の様子なので、どのスタッフがそう聞かれても対応できるように伝達ノートをつくり引継ぎが出来るようにしました。
今では「出勤したらノートを見る。帰るときにはノートを書く」というのが当たり前にようになっていますが、当時はまだ組織としてきちんと動けてなかったし、何もかもが初めてだったのでスタッフに周知徹底するのも大変でした。
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――御社はとてもユニークな保育サービスを提供されていますが、その内容を教えてください。
例えば、“縦割り保育”の仕組みがあります。これは、保育の対象を就学前園児に加え学童(小学生)までに拡大して、0歳児から小学6年生までお預かりしています。このことは、近年では経験しにくい子供間の縦の人間関係形成や社会性の醸成に役立っています。比較的大きな学童にとって、小さな子供達の世話をすることで優しさや思いやりなど情緒性の育成やリーダーシップ醸成の機会になります。一方、小さい園児は、大きな学童の様々な動きを真似しながら自然に身の回りのことを自分でしようという気持ちが生まれ自主性や躾の形成に役立っています。
かつて兄弟が多かった時代から、少子化あるいは一人っ子といった家庭環境が増え、子供の縦の関係作りが希薄な時代になってきています。一般の保育所や学校でもほとんどが同年齢の集団で過ごしていることから、この縦割り保育の仕組みは子供達の社会性の醸成に大いに役立つものと考えています。
最近の事例では、言葉が出にくかった子供が入園1~2ヶ月でどんどん話をするようになったケースもあります。
――お母さん達の不安を取り除いたりニーズを取り入れたりしているとのことですが、具体的にはどのようなことをされてるのですか?
先ほども言いましたが、働く親にとって保育園の様子はとても気になるところです。当園では福岡県の無認可保育園では初めてWEBカメラを導入しました。これによって24時間、いつでも携帯電話やパソコンを通じて自分の子供の様子を見ることができます。
これも自分だったら働きながらも子供の様子が気になると思ったからです。
また、スタッフも見られることで誰に見られても恥ずかしくない仕事をするといういい緊張感にもつながっているのではないかと思います。


――そのほかにどのような取り組みをされてますか?
月極保育、一時保育だけの一般的な保育に止まらず、フレックス保育や夜間保育など、曜日に関係なく24時間にわたりフレキシブルな対応をしています。
また、3ヶ所の姉妹園には、いずれの園での預け入れも可能にしています。
ですので、普段は家の近くの園でお預かりして、出張のときだけは駅の近くの園でお預けいただくなどして利用してもらっています。
また、特に夜間の保育は安全性の確保が要求されます。夜間働くお母さん達にとって関心の高いところです。当園では、男性保育士を登用して人的対応を図るとともに、定期的に避難訓練を行って園児の危機対応意識の定着を図っています。
また、3園運営していることでのメリットが多くあります。
まずは3つの保育園の中で保育士を定期的に移動させることが出来ます。これは、保育士が違う園の現場を実際に見て体験することで新たな気付きを発見してもらうことにも役立ちますし、マンネリ化を防いだりすることにも役立ちます。具体的には掲示板の使い方や他の保育士への伝達方法など様々な改善がこの移動システムによって提案されて実行されました。
次に、スタッフの研修という効果もあります。園をローテーションさせているうちに、経営者として、今まで気付かなかったスタッフの一面に気付いたり、その人の能力を引き出せたケースもありました。
最後に3園での保育士のローテーションは各園での保育サービスの均一化にもつながります。
――人材育成にも努力されているようですね。
サービス業の一つであるである保育所にとって、サービスの提供を行う人の育成は最重要課題と位置づけています。当園の人材育成のテーマは、“的確な判断ができる、自ら考える力をつける”です。
具体的な取り組みとしては、SMIプログラム研修という自己啓発研修を全保育士とともに行っています。
現在では、保育士、経営者双方に、仕事の使命感や責任感ならびにプライドがうまれ、価値観、心構えそして目標を共有することができ結束力が高まったと感じています。
認可保育園で勤務された保育士を中途で採用するケースもありますが、これまでの保育に対する捉え方と当園が目指すものがとかく違う場合があります。このようなケースではとても有効なツールとなっています。
このような研修の成果もあって、私は保育士に安心して現場を任せられる体制が進んでいると思います。
今後事業を拡大していくにつれ新たな人材を採用する必要があります。そのときの採用基準は男女関係なく、保育の経験も関係なく、自分と同じ思いで保育の出来る人・・・これにつきます。また、保育業務がメインなので子供がすきなのは絶対条件です。さらに、子どもだけでなく親ともコミュニケーションをとれることが重要だと考えています。
――同業他社との差別化はどのようなことをされていますか?
リトルワールドでは保育の対象を就学前園児に加え学童(小学生)までに拡大しています。
ですので、小学校が終わってリトルワールドに来て宿題をやって夕食を食べてお母さんが21~22時頃に引き取りにくる・・・・こんなサービスをしています。
また、差別化という意味では今後は塾などと提携してリトルワールドに講師に来てもらって塾に通っている子供達と同じように勉強が出来る環境を作りたいと考えています。
また、今は2ヶ月からの赤ちゃんを預かっており、なるべく幅広い年齢層を受け入れるようにしています。
さらに、一人一人の子供に合わせてアレルギー対応も可能なスタッフによる手作り給食もポイントです。
最近始めたサービスとして園バスを購入して朝夕に園児の自宅からリトルワールドまでの送迎と帰りのリトルワールドから自宅または職場までの送迎も行っています。

――新しいアイデアがどんどん生まれる権藤さんの情報源は何ですか?
自分自身が子育て中です。なので、私が子供を保育園に預けるとしたら、「迷わずリトルワールドに預けたい」という自信が常に抱けるようサービスを考えていますし、同じ働く親達の悩みはどのようなことなのかを、常に同じ目線で考えています。
また、時代によってその悩みは変わっていきます。できるかぎりその時々の要請が把握できるように、アンケートによる意見収集や、インターネットを利用した“おしゃべりフォーラム”などの場を通して、保護者のニーズの収集に努めています。
――この度はそのような取り組みが評価されたようですね。全国商工会議所女性会連合会の「第8回女性起業家大賞」の最優秀賞を受賞され、おめでとうございます。受賞の感想をお聞かせください。
このような賞をいただき、大変ありがたく光栄に思っております。これは常に保護者や子供達の視点に立ち、当園の保育士の皆と一体になって、ともに取り組んできたことが何より評価されたと感じています。今後もこれを励みに益々頑張っていこうと思っています。
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――応募のきっかけは何でしたか?
約1年前に、一歩外に出て自らの会社経営の視野を高めるため福岡商工会議所女性会に入会しました。そこで先輩経営者の方々から女性起業家大賞の制度のあることをご紹介頂き、せっかくの女性会活動で自分を試す大きなチャンスと思いチャレンジしてみることにしました。
商工会議所の女性会入会して女性経営者の方と会い、食事しながらアドバイスをもらう、経験談を聞かせていただく・・・こんなことだけでも、今までの自分の知らない世界の話で本当にためになることが多いです。
こんな不況の中でも女性会の会員の皆さんは立派に女性経営者として従業員を抱えて、自分の会社を運営されてる方々ですので、自ら経験された方々のアドバイスは重みがぜんぜん違うんです。
――将来の夢はどのようなことですか?
開業したときの思いを変えることなく、これからも常に保護者や子供達の視点に立って、保護者に安全性や安心を感じてもらえるように、より質の高いサービスの提供を追及していきます。また、併せて多園化の優位性を活かした新たなビジネスモデルを構築して、保育園(事業所)の数の拡大を進めるという夢を持っています。具体的には市内では各区に園を設置したいし、将来的には県内に園を設置して様々な要望にこたえれるものにしていきたいと思います。
私は5年先、10年先でも働く母親の保育サービスに対する需要や要望は止まるところはないと思われます。それどころか、ますます質の高いものを要求されていくものと考えています。
社会環境が大きく変化していく中で、私は働く母親への支援、子供の社会性の醸成、子供の安全の確保といった普遍的な課題に挑戦していこうと思います。
――最後になにか一言どうぞ。
これまでは自分は保育園の園長先生でした。これからは、自分がスタッフ16名のリーダーとして、130名のお子様を預かる保育園の経営者として自覚を持ってやっていきたいと思っています。
最近ですが、娘が「将来は保育士になりたい」っていったことがうれしかったです。
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【レポーターのコメント】
保育園はそもそも変われない体質を持ち合わせた業界と言われます。そのような中で、当園のように直営店の姉妹園を3ヶ所保有する保育所は、福岡県下では珍しい取り組みと考えます。現在では園児数は130名に増え、当園の斬新な取り組みは多くの保護者から支持を得ていることが窺えます。
とかく創業の動機が曖昧であると長続きしないケースもありますが、権藤さんの場合しっかりとした動機と事業運営へのこだわりを感じることができました。
また、自分の子供を育てながら取り組んだ保育所運営は、保護者の立場や思いを自分に重ねあわせることが、迅速な変化への対応や、アイデアの創造につながったと思います。
経営者として、“よりよい保育サービス”を合言葉に常に前向きに取り組んでいます。
もとより権藤さんの経営展開は、時代のニーズを的確にとらえた事業の先見性があり、かつ堅実な事業運営を実践しており、創業者として立派に事業活動を進めてこられています。しかし、当社は市場競争の激しい中で、創業期から成長期へと事業のステージが転換する時期にあり、経営上の課題の整理と今後の事業展開の方向性を検討する経営戦略の再設計(経営革新を含めて)を進めることを、今の時期にお勧めしたいと思います。
添付資料(印刷用にご利用ください)
- interview001.pdf (684.2 KB)
レポーター:薗田 恭久(そのだ やすひさ)
中小企業診断士
民間企業勤務を経て、情報通信関連会社を同僚と創業。以後代表取締役含む14年間に亘る企業経営実務を経験。その後2005年、有限会社薗田経営リスク研究所を設立、経営コンサルタントに転身する。事業承継支援、事業再生支援、経営革新支援、およびBCP(事業継続計画)・BCM(事業継続管理)の企業経営リスクマネジメント構築支援等を専門分野として、中小・中堅企業の支援を積極的に行っている。
- 有限会社Branches
代表者:権藤光枝 井尻園
福岡市南区折立町10-25
アルファービル井尻2階
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福岡市博多区祇園町2-11
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