-まずは、会社概要についてお聞かせ下さい。
平成14年7月、春日市で印刷業を開業しました。主な取引先としては、民間企業や官公庁、NPO法人などで主に法人向けの仕事を行っております。また、受注エリアも国内にとどまらず、スイスや韓国など海外の企業や団体から、広報誌や機関誌などの印刷業務を受けるなど国内外を問わず仕事をしています。
取引先から依頼される印刷物の種類は、主にお店や企業の案内、商品やサービス内容を案内するためのチラシ、リーフレットといった商業印刷物から、名刺や封筒、伝票といった事務用印刷分野までの幅広い分野を手掛けています。
当社は、印刷業といっても自社で機械や設備を持たず、印刷から製本に至る一連業務はアウトソーシングを行っており、私は企画提案やディレクションを行っています。そのため、営業から企画提案、納品までの全ての業務を私一人でこなしています。

-ディレクションという役割について、もう少し詳しく教えてください。
一般的に、クライアントはチラシや商品リーフレットなどの印刷物を我々のような印刷業者へ発注する場合、コンテンツ(情報の中身)においては具体的な内容や構想案をもっていますが、デザインや色などは抽象的であることが多いのです。
担当者がイメージする“カタチ”の見えないものを、さまざまな形容詞などを使ってイメージを共有化し、そしてそれを最終的に文字や色、デザイン、キャッチコピーという形で文字や図形にします。つまり、クライアントがイメージするものと、こちらがイメージするものをうまく擦り合わせをする力が必要となってきます。
それについては、女性ならではの柔軟な発想力や対応力、コミュニケーション力が求められると思います。クライアントの抽象的なイメージをデザイナーや印刷会社へ的確にディレクションをすることが、クライアントから信頼を得ることに繋がります。
-設備を持たない印刷業という事業形態もあるのですね。その特徴や利点などについて、もう少しお聞かせ下さい。
自社で設備をもたないので、大型の設備投資を行う必要ありません。そのため、借入金などの資金調達が不要で財務面で経営が安定します。
また、小ロットでの要請があった場合は、小ロット対応の設備を持っている業者さんに依頼するなど、クライアントの要請に合わせて柔軟に業者さんを選定することができます。自社で設備を持っていると、自社で保有する設備仕様の範囲内でしか対応できないという制約が出てきますが、当社ではクライアントのあらゆるニーズに対して、柔軟に対応できるという利点があります。
また、製作業務はすべて外注するため、私は営業提案や打ち合わせ、納品など直接クライアントに接する業務に集中できるという利点もあります。
さらに、たくさんの印刷業者やデザイナーといった専門家たちと接する機会が多いため、最新の情報や専門的知識を収集し、蓄積することできます。
外注を行うことで、自分の自由時間が多く取れ、勉強や研鑽のために時間を費やすことができます。
このように、設備を持たない利点はいくつか挙げられます。
-印刷業界というと“まだまだ男社会”というイメージがありますが、松永さんがこの印刷業で起業されたきっかけを教えてください。
実は、事業を立ち上げる前の8年間、印刷会社に勤務しておりました。従業員18名の組織の営業課長として働いておりました。自慢ですが(笑)、年商の9割は私が稼ぎ出していました。
サラリーマン時代は、もう天狗状態でしたね。ブランド服を身にまとい、部下の男性社員を怒鳴りつけるなど、女営業課長として“かなり怖いオーラ”を放っておりました(笑)。
そんな会社ですが、実はこの会社は過剰な設備投資のために営業不振に陥り、倒産してしまったのです。閉鎖直前まで会社に残っていた従業員は私を含めて3名でした。会社の実情を聞かされたときは途方にくれましたね。
しかし、その後、気を取り直して取引先に事情を伝えるために企業訪問に向かいました。その際、取引先の経営者や担当者から次のようなコメントを頂きました。「そういう事情であれば、あんたがやればいい。松永さんがやるなら応援する。」という言葉が返ってきました。その言葉に衝撃と励ましのエールを感じました。
その時は、自分が会社の看板だけで仕事をしていたのではなく、松永幸子という個人に対して仕事を任せてくれていたんだと実感しました。このようにして、これまでの取引先を私が引き継ぐかたちで印刷業「ハロー」を開業しました。
その時の教訓があったためか、設備は保有せずに印刷業をやることを決意しました。
-それにしても、よく決断されましたね? 女性1人で経営をするということに迷いとか不安などはありませんでしたか?
営業課長として、年間数億円の売上実績を出していたので、印刷業界で食べていくことには、自信がありました。開業前は、このようにかなりの自信をもっていたのですが、いざスタートすると「本当に仕事がくるのか」と心配ばかりが募りました。
開業したのは7月だったのですが、年末までもつのか弱気になることもありました。サラリーマン時代は、ブランド品を買って、ブランド服を身にまとった生活をしていましたが、開業当初はありったけの服や貴金属を質屋に入れて、現金をかき集めながら生計を立てた時もありました。
この頃、ちょうどマンションを購入した時で、住宅ローンの返済もしなくてはいけなかったので、資金の確保だけはしっかりとしなきゃ、と思い必死でしたね。サラリーマン時代に身についた浪費癖や生活レベルを落とすのは結構苦労しました。

-開業する前と後で、仕事に対する考え方は変わりましたか?
自分で事業をスタートして気がついたことなのですが、自分一人で何もかもしようとすると全体の仕事量がこんなに小さくて限られてくるんだ・・・、ということを思い知らされました。
サラリーマン時代は、部下や他のスタッフがいてくれたからこそ、自分が営業職に専念できて数億円の売上を達成することができていたんだなぁと。
すべての業務を自分一人でこなそうとすると、その時の十分の一程度の売上しか達成できないことがわかりました。サラリーマン時代、いかに周りの多くのメンバーに支えられていたのかということを思い知らせされました。こういうことも判らずに、その当時自分が天狗になっていたことをとても恥ずかしく思いました。
今では、この時の反省を踏まえ、さまざまな関係者の方たちと互いに気持ちよく仕事ができるように、相手に対する言葉遣いや接客態度などは気を付けています。
-平成23年1月に認定された経営革新計画では「紅茶の商品開発と印刷業のノウハウを生かしたパッケージデザインへの新たな展開」となっておりますが、全く新しい分野にチャレンジしたきっかけを教えてください。
昨今の不況や、パソコンやデジタルカメラの高性能化と普及によって、広告用のチラシの減少やペーパーレス化等での印刷物市場の縮小が進み始めたのを感じていました。
そこで、従来の印刷物とは違う「価値ある印刷物」を考えるようになりました。既存の印刷業が法人相手のビジネス(Business to Business)だったので、新たにオリジナル紅茶の販売を通して個人消費者向けのビジネス(Business to Customer)を開拓したかったのです。
これまでの印刷物という領域にこだわらず、全く新しい分野に挑戦し、その商品の付加価値を高めるパッケージやタグ、ブランドを作り、自社独自のブランドを構築することが必要だと感じました。
ブランド力を高めるためには、「商品力」プラス「デザイン力」が必須であることは、既存の印刷業務を通じて痛感していました。印刷業をやっていますので、売れるためのパッケージデザインを作るノウハウはありました。
他社製品を使って、オリジナルパッケージやダグを作るのもいいのですが、私はまずは自社商品の紅茶を作り、このオリジナル商品に付加価値をつけるためのパッケージデザインやロゴマーク、包装などをトータルで創り出し、自社ブランド「ハロー紅茶」を構築したいと考えました。
そしてお客さんが“欲しい”と思うパッケージを作り、商品そのものの付加価値を高める。まずは自社ブランドとして「ハロー紅茶」を商品化し、それに付随するパッケージデザインという新しい付加価値としての印刷業の展開を図っていこうと考えました。


-ところで、なぜ紅茶だったのですか?
実は私、コーヒーが苦手なのです。牛乳がたっぷり入ったものしか飲めないのです。だから家でも普段から紅茶を飲む習慣があって、いろんな種類の紅茶を買うようになりました。
そのうちに、紅茶についてもっと勉強したいと思って、紅茶教室に通うようになり、そこで紅茶の葉の種類や歴史、文化や産地、テイスティング、入れ方などを専門的に学びました。
紅茶教室に通っているうちに、この紅茶で新しいビジネスができないか、を模索するようになりました。私のようにコーヒーが飲めない女性向けに自分が厳選した紅茶の葉、それに果肉や花びらをブレンドしたオリジナルフレーバー紅茶を販売しようと考えました。
紅茶の葉をセレクトする際に特にこだわっている点は、若い女性が好むような“見た目のかわいさ”と“はっきりとした香り“があるかどうかです。見た目のかわいさというのは、紅茶の葉に花びらや果肉を入れてブレンドさせて見た目を楽しめるようなブレンドティを作ること、そしてさまざまな種類の紅茶の中でも特に、はっきりとした甘い香りがするものを選んでいます。
「紅茶を飲みながら、お子さんやお友達と楽しくおしゃべりして欲しい!」と思い、紅茶をコミュニケーションツールにしたくハロー紅茶を誕生させました。いろいろな種類の紅茶を揃えています。

-この「ハロー紅茶」の販売と喫茶サービスのある店が福津市にあるみたいですが、このお店はユニークな“プチ起業家ショップ”ですね。この店舗の概要について聞かせてください。
福津市津屋崎に「カフェ&ギャラリー古小路(こしょうじ)」という店舗があります。ここは、曜日ごとにオーナーが変わる女性オーナーたちの共同店舗です。毎週月曜日の11時から16時まで「ハロー紅茶」が出店しています。月曜日から日曜日まで曜日毎に店主が変わるユニークな形態です。
ちなみに火曜日は「雑貨&カフェ」、水曜日は「パン&カフェ」、木曜日は「玄米ランチ」、金曜日は「ナチュラルスイーツ」、土・日曜日は「ごはんや」となっており、それぞれ曜日ごとにオーナーが変わります。
ここは、築100年以上の古民家で長年タバコ屋だったそうですが、お店を切り盛りしていたおじいちゃんが亡くなった後、お店は閉店し建物だけが残っていたようです。隣には、その娘さんたちが住んでいたのですが、たばこ屋の店舗はその後活用する予定もなく、取り壊す予定だったそうです。
実は、この津屋崎地区は、江戸時代に海上交易で栄えたところで、白壁の商家が並び往時をしのばせる町並みが残る地区です。地元では、このような街並みを活用したまちづくりが行われております。
「古い町並みを残そう」という地元まちおこし団体の呼びかけをきっかけに、取り壊すことを思い直されたみたいです。その後、市が主催する起業講座の参加者たちとこの建物のオーナーが出会うことになり、貸し店舗になることが決まったようです。「毎日の店舗運営は荷が重い」とする主婦の起業ニーズに合わせ、曜日毎に交代で店を開ける今のアイデアに辿り着いたようです。

-松永さんが、この「カフェ&ギャラリー古小路“に入居したきっかけは何ですか?
私は、2010年1月にここへ入居しました。この「カフェ&ギャラリー古小路」は、2009年10月に開店したようです。
私がこのお店に入るきっかけとなったのは、津屋崎にあるまちおこしの活動グループの団体の印刷物を作ったことがきっかけです。その印刷物の仕事がご縁で、まちづくり団体の方と知り合いになりました。
その時に、この建物の再活用のことを知ったのです。その話を聞いた時、すぐに入居を決意しました。その時すでに紅茶の商品化を考えていた頃で、ネット販売することを検討していた矢先のことでした。
ネット販売をスタートするにあたり、まずは実店舗を構えて多くの方に「ハロー紅茶」の存在を知ってもらえるのはチャンスだと考えました。ユニークで話題性のある建物にお店を出すことで、地域のお客様に知ってもらうきっかけになればと考えました。
それと、この建物がとても気に入ったことも大きな理由です。週1日しか開いていない店舗は、逆に魅力的だと感じました。何か、ここから「ハロー紅茶の物語」が作れそうな予感がしました。

-今後の紅茶事業をどのように展開していく予定ですか?
今後は、各地域で行われている手作りイベントなどへ積極的に参加し、自ら販売することでお客様のさまざまな声を直接お聞きしたいと思います。いずれは『紅茶教室』を開講したり、ワンデーショップなど手作りの雑貨などの作家さんたちが集まるイベントへ出店することで、商品の知名度を上げていきたいと思います。また、同時にネット通販の準備も進めているところです。
-最後に松永さんの今後の目標をお聞かせください。
将来は、自分のオフィス兼店舗を構えて経営を拡大したいと考えております。

印刷業の注文をこのオフィスでお受けしたり、ハロー紅茶を販売したり・・・。オフィスでありながら、商品販売のショップとしての機能を併せもつオフィス&ショップを構えたいですね。
そして、そこで人を雇ってもっと大きな仕事がやれるような組織体制を作りたいと考えております。サラリーマン時代は、部下に怖がられていましたけど、今度は部下から頼りにされるパートナーになりたいですね。
【レポーターのコメント】
印刷業界において、女性ならではの仕事の丁寧さや発想の柔軟性、コミュニケーション力の高さなど、クライアントからの信頼と安心感を得て着々と確実な経営をされていると思います。
印刷業といっても設備を保有せずにディレクションという役割に自らの存在価値を見出し、印刷業としてのビジネスモデルをしっかり構築されております。初期投資をかけずに経営を行っていくことも事業立ち上げ時の重要なポイントになります。
また、新しい事業である紅茶の販売においても「古民家を使ったまちづくり」へ共同参画しながら、「紅茶を飲みながら、お子さんやお友達と楽しくおしゃべりして欲しい」という紅茶をコミュニケーションツールとして位置づけているところが店舗コンセプトと合致していると思います。
ハロー紅茶の商品コンセプトとそれを表現する店舗コンセプトとがしっかりと適合していますね。このように、「誰に(ターゲット)、何を(商品やサービス)、どのように(提供方法)」という事業ドメインがバランスしていることは事業スタート時にはとても重要となります。
これから起業を考えられている方においても参考になる点が多いのではないでしょうか。今後の活躍が期待されます。

レポーター:齊藤 久美(さいとう くみ)
中小企業診断士 SA-KUコンサルティング代表
大手流通業でのマーケティング業務に携わった後、都市計画事務所で13年間にわたりコンサルティング業務に従事。2009年に経営コンサルティング事務所を設立。- ハロー紅茶
住所:福津市津屋崎4-34-1
営業:毎週月曜日11時~16時















