福岡市内で「Strawberry Fields」という洋菓子店を4店舗展開し、ブライダル用のケーキなども手がける有限会社エス・エフ・マーケットの藤井英信さんはショッピングモールへの出店を機に経営革新計画の承認を受けられました。現在は3年間の計画期間は終了しましたが、この経営革新をきっかけにさらなる飛躍を目指されています。

-どのようなきっかけで経営革新計画を申請しようと思われたのですか?
2006年4月に伊都のショッピングモールへの出店の依頼があり、何か新しいことをやりたいと思ったのがきっかけです。30年前に最初の店をオープンした時は新しさのある店でしたが、周りのお店のレベルも上がってきたので、埋もれてしまうのではないかという危機感がありました。そこで、どんな新しい要素を加えるかを検討するために経営革新計画を考えました。

もう1つの理由としては、常々従業員がお客様とコミュニケーションするのが苦手だな~と感じていて、何とかしたいと思っていたことがあります。
以前からカタログを使ってオーダーメイドのケーキの注文を受けていましたが、お客様に「イチゴのショートケーキの中身を他に変えて欲しい」と言われたときに、店の従業員が一言「できません!」と答えてしまったり・・・ ということがありました。
-当時は、他のお店に比べて強みはどのようなところにありましたか?
強みは特にありませんでした。他のお店との差というのはほとんどなかったと思います。
-経営革新の内容はどのようなものですか?
経営革新計画のことを教えてくれたのは以前から店舗の設計をお願いしていた建築家の方で、その方は中小企業診断士でもあったため、経営革新計画の作成についても相談しました。その時に、従業員を教育してお客様とのコミュニケーションを改善していくのではなく、コミュニケーションをとるきっかけを作らないとこれからは難しいのではないかという話になりました。そしてケーキのオーダーメイドをITを活用してできるはずだと提案がありました。

それで、パソコンをお客様とのコミュニケーションツールとして使って、アルバイトでもできるようにしたいと考えました。
そしてそこから出てきた経営革新計画の内容というのが、ITを活用してお客様の考えたオーダーメイドのケーキを作るということと、ITをお客様とのコミュニケーションに活用するという2つのことです。具体的には、お客様と店員がパソコンを使ってコミュニケーションをしながら、一緒にケーキ素材の画像を組み合わせながら好みのケーキを作っていくというものです。

-承認後、経営革新計画の実行はスムーズにいきましたか?
コミュニケーションツールとして使うはずのITの開発が大幅に遅れてしまいました。開発の業者が決まるまでに1年以上かかり、完成したのは経営革新計画が始まって2年後、実際に使い始めたのはそれからさらに半年後でした。
-そんなに遅れた原因は何ですか?
1番は開発してくれる業者の選定に時間がかかったことです。6社に見積もりを依頼したのですが、金額がバラバラで最も高いところでは400万円、最も安いところでは250万円と150万円もの開きがありました。それに、打ち合わせの途中から来てくれなくなる業者もありました。
でも、ITの進化は早いので、費用的には当初の計画よりも低く抑えられました。
-経営革新計画の支援策は何か活用されましたか?
国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)の融資を利用して有利な借入ができました。
補助金は説明会だけ行ったのですが、周りの会社が特許を持っていたりとかで、すごかったので絶対ムリだろうと思って申請もしませんでした。

-3年間の計画期間は終了していますが、経営革新計画の達成度はどうでしたか?
2007年から2008年にかけての原材料高などがありましたので、数値目標は達成できませんでしたが、経営革新計画でやりたかったことは全てできました。
-経営革新計画は役に立ちましたか?
物事の考え方とかで非常に役に立ちました。私自身もそうですが、従業員も良く考えるようになりました。それも客観的に外側からものを見ることができるようになったことが大きいと思います。
そして、従業員がよく提案してくれるようになりました。たとえば、お客様はこういうものを欲しがっているとか、こういう商品を置いたほうがいいのではないかとか、値段が高すぎるのではないか、といったようなことです。
また、今までは会社が工場中心に回っていました。店舗の従業員はほとんどが若い女性ということもあって、工場に対してあまり意見が言えなかったのですが、売り場中心に変わってきました。よりお客様に近づいてきたと思います。

そのほかには、今まではやってこなかった他業種との連携を積極的に行うようになりました。現在はITの会社2社と連携して情報交換などをしています。
あとは、私自身数字の勉強ができたことも大きいと思います。
-現在の状況はいかがですか?
計画作成時点では3店舗でしたが、経営革新計画の伊都店出店の後、2009年4月にミーナ天神2階に5店舗目となる「Strawberry Fields Act5」をオープンしました。Act5の5という数字は5店舗目という意味で付けました。Act5は西新店よりもデザートの手作り感を高くしているのが特徴です。もともとの3店舗のうち1店舗は経営革新計画承認後に工場にしたため、現在4店舗です。

経営革新のオーダーメイドのケーキは全店でパソコンを使ってできるようになっています。現在は、オーダーメイドのケーキの割合は1割程度ですが、ホールケーキ(カットしていないケーキ)の売上比率が増えて、売上・利益効率が良くなりました。
ただ、経営革新の反動もあります。
経営革新計画では、お客様とのコミュニケーションを考えていて、それはうまくいっていますが、今度は社内でのぶつかりが出てきました。
店舗はお客様の要望に添ったケーキの注文を受けるのですが、お客様の要望を聞けば聞くほどバラバラの注文を受けることになります。そうすると工場ではそんな細かいところまで受けないでくれという具合で意見が対立するようになってきました。
工場としては、季節はずれのフルーツなどあまり出ない材料を置いておけないというのが実情としてあったようです。

解消するために人事異動などもしましたがもう1つ足りないので、今後は、売上データなど会社の数字を社内のサーバーに入れて、従業員全員に公表して、従業員にも経営意識を持ってもらうようにしていく予定です。そして、会社の目標を全員で共有しながら社内のコミュニケーションを図っていきたいと考えています。
でも、徐々に解消はしてきています。
-今後の目標を教えてください。
今後も福岡市内を中心に店舗を増やしていきたいと思っています。
「Strawberry Fields」という店のブランド力も上がってきたと思いますが、もっとブランド力をつけたいと思っています。

また、経営の内容を充実させていきたいと思っています。経営革新計画ではITの活用は店舗だけでしたが、従業員がITに慣れてきたのもあり、会社の業務をIT化していきたいと思っています。たとえば、売上報告の日報は日計表を手書きしてFAXで送っていますが、ITを利用して売上報告ができるようにしたいと思っています。
-これから経営革新計画を作成しようとしている企業へのアドバイスをお願いします。
会社のみんなで一緒にやっていこうという意識付けが重要だと思います。
【経営革新計画の作成を支援した立石氏(中小企業診断士)のコメント】
ブライダル用のケーキについて、タイヤメーカーの従業員同士の結婚式でタイヤの形をしたケーキを作ったなどという話を聞くうちに、当社の強みは洋菓子の創作力とデザイン性にあると考えました。そのため、今後の方向性としては個別オーダーに力を入れていくということを考えました。
そこでITを活用して画像による創作シミュレーションを行い、個別対応の創作ケーキを提供するというテーマを提案しました。
![]()
![]()
経営革新計画は一緒に作成しましたが、藤井社長は計画を自分のものにされて、PDCA(Plan-Do-Check-Action)を身につけられましたので、経営革新計画を実行し、さらに新しい店舗を増やしていけているのだと思います。
【レポーターのコメント】
洋菓子店にとっては、小麦粉や乳製品など主要な原材料価格の高騰で経営環境が厳しい中、当社は順調に店舗を増やしています。インタビューで感じた成功の要因としては、まずお客様志向へと転換してきたことがあると思います。一般的な洋菓子店は職人が考えて作ったケーキをショーケースに並べ、その中からお客様に選んでもらうという形態ですが、当社の経営革新計画では、お客様と店員がパソコンを使いながら好みのケーキの素材を組み合わせてケーキをデザインし、それを職人に作ってもらうという逆の形態になっています。
実際はこのような個別オーダーのケーキの比率は1割程度ということでしたが、それでも業績が向上しているのは、お客様志向に転換できたことでお客様の満足度が向上し、リピーターが増えたことにあるのではないかと思います。
それができたのも、経営革新計画の内容を従業員に説明し、会社の目標を全従業員で共有してきたことが大きいと思います。
インタビューでは、藤井社長は当社の強みは特にないとおっしゃっていましたが、経営革新計画の作成を支援した立石先生は当社の強みが洋菓子の創作力とデザイン性にあると見抜かれて、個別オーダー強化の方向性を出されました。会社の中で働く社長や従業員にとっては当たり前になっていて、会社の強みが何なのか、どこにあるのかわからなくなりがちです。そのため、外部の専門家に客観的に分析してもらうというのは事業の方向性を正しく捉えるためにも、そこで働く従業員のモチベーションアップのためにも有効なことではないかと思います。

添付資料(印刷用にご利用ください)
- interview04.pdf (609.6 KB)
レポーター:大串 明子(おおぐし あきこ)
中小企業診断士、1級販売士、経営学修士(MBA)
外資系コンピューターメーカーでコンサルティングやシステム構築に携わり、その後、投資会社で経営管理実務を経験。2008年に独立・開業し、現在は経営コンサルタントとして活動中。事業計画、経営革新計画の策定、創業支援などを中心に中小企業の支援を行なっている。- 有限会社エス・エフ・マーケット
早良区西新5-4-19-2F
TEL:092-822-0400洋菓子製造・販売
Strawberry Fields 西新本店
Strawberry Fields 南庄店
Strawberry Fields 伊都店
Strawberry Fields Act5 (ミーナ天神2階)

















