持続的成長企業を実現する経営者になるために ~あなたはどうすれば成功する社長になれるか~(2010/01/25開催)
事業を受け継いだ後、長期に渡って事業を成長させるには、社員全員が共有できる道しるべ、経営理念が必要です。 ジョンソン・エンド・ジョンソン社の、Our Credo(我が信条)、は、1943年に発表されたA4用紙たった1枚の同社の経営理念。半世紀以上たった今でも会社の事業運営の中核として定められています。 本セミナーでは、同社の企業理念・倫理規定、Our Credo、と、企業が果たすCSR(企業の社会的責任)をベースに、持続的に会社を成長させる為の後継者のあり方について、講師が体験を基に講演します。 事業の長期継続のためのヒントを学んで頂き、事業の承継と、その後の経営にお役立てください。
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皆さんこんにちは、松本晃と申します。この福岡は私にとっては2番目の故郷ではないかと思っております。93年にジョンソン&ジョンソンという会社に移りました。いわゆる転職というものですが、それまでは伊藤忠商事という会社におり、3年半大阪、残りは東京で勤務しておりました。45歳になったら、(自分の転機だから)会社を変わろうと思っておりまして、その理由は今日は時間がないので述べませんが、45歳は人生の転機だと決めておりましたので会社を変わりました。
後ほど説明いたしますが、ジョンソン&ジョンソンというのは大変良い会社なのですが、私が行った部署は大変苦しいところでして、その時に私を助けてくださったのが、今九州中央病院の院長をなさっている杉町圭蔵さんという方です。当時九州大学の第2外科の教授をなさっていました。もちろんこちらでも有名だと思いますが、日本でも超有名な、ある意味では外科学会のドンのような方でそのような方がいろいろな意味でサポートしてくださいました。本社は東京ですが、少なくとも月に1回は博多に来ておりまして、杉町先生のお陰で私はジョンソン&ジョンソンの社長になれたのではないかと、今でも思っております。博多というところは大変私にとってもなじみの深い所です。ここ何年間かは(相変わらず年に3~4回くるのですが)何となく元気じゃないなという気がしております。こうやって訪問者の私が元気がないと感じるということは、きっと経済的に厳しい状況にあるのではないかと思います。
経済について、私は専門家ではないので、そういう話をしようと思って来たわけではないのですが、大きな目で見ると経済はまだまだ大きな不況になると思います。90年を境に経 済は不況になりました。最初の10年終わったら、「失われた10年」などと言われ、もう失われた20年になっており、これは失われた30年につづき、これはずっと良くならないということです。ずっと良くならないということをベースに会社を経営していかないと、結局世の中に頼ってもうまくいくはずはないと思います。
昔どこかの本で読んだことがあるのですが、イギリスの産業革命が起き、その後何が起こったかというと世界に格差というものが起きました。ある国はこんなに良くて、ある国はこのように悪い。ところが産業革命前は国民一人当たりのGDPというのは、世界中どこに行っても同じでした。もちろん細かい数字を存じているわけではありませが、産業革命後に非常に大きな格差が起き、先進国では一人当たりのGDPは非常に大きくなり、後進国は大きくならなかったという、ただそれだけの差です。1989年、1990年を境に世界はグローバルになりました。グローバルというのは、それまでのインターナショナルと異なり、要するに国と国の垣根が無くなったのがグローバルです。インターナショナルというのは、一応垣根はあったのですがそれを飛び越えても良いというのがインターナショナルです。ところがグローバルになるというのは垣根が無くなったわけですから、どこにも誰でも行けるということです。どこで何を作って、どこで何を売るのも、世界中自由だということです。
そういうことを前提とすると、世界がグローバルになると当然のことながら、より一物一価に近づいて行くのではないかと思います。したがって、アメリカで買ったら100円で、日本で買ったら200円、中国で買ったら20円というような事は、世の中ではこれからどんどん無くなっていきます。さすれば、高い国は安くなるし、安い国は高くなって、あるところでどこかに漸近していく(ある幅はどうしてもできると思いますが)ということになります。漸近していくということからすれば、日本の物価はまだ下り、給料も世界の水準まである程度下がっていくと勝手に思っています。もちろん私は経済学者でも何でもありませんので、そのような事は本当かどうか解りませんが、実態はそのようになっているのではないかと思います。従って、そういうことをベースに会社経営を行っていかないと、特に今日ご参加の経営者の方は結局失敗するし、会社を危うくしてしまいますし、自分達も良くならないということになります。
今日のタイトルは、「社長は悪くない」というタイトルですが、これは後半にお話するとして、まず簡単に私の自己紹介をします。生まれ育ちは京都です。大学は京都大学の農学部を卒業し、伊藤忠商事に20年半勤めて、93年に転職しました。92年は私が45歳の年で、45歳になった途端に転職しました。伊藤忠商事の最後の6年間は伊藤忠商事の子会社に出向しており、わずか6年しかおりませんでしたが6年で売上が20倍になりました。大赤字の会社が大黒字になりました。たぶん辞めても(転職の)話があると想定して辞めたのですが、実際辞めると23社位からお話があり、そのうちの1社がジョンソン&ジョンソンでした。自慢話をしております。自慢話をしないと、「あいつ一体なんのこっちゃ、ジョンソン&ジョンソンなんてどっちみちバンドエイドの会社で、ろくでもない会社だと」いうことになってしまい、聴いていても面白くないと思いますので、最初は自慢話をさせてもらいました。
ジョンソン&ジョンソンに入り、最初の6年間に先ほど申し上げました、杉町先生のような大きなヘルプもあり、ある部隊の日本語でいうと事業本部長に就き、英語でいうとプレジデントですが、そこで(6年で)売上を5倍、利益も大赤字だったのが大黒字にしました。99年の1月にジョンソン&ジョンソンの社長になりました。それ以降9年就業し、これも今日はお話しませんが、私は60歳になったら辞めると決めておりましたので、60歳の定年を迎えて辞めました。9年で売上が600億弱が2千数百億になりました。実質的には、売上でいくと約4倍弱、利益は30倍くらいになりました。
そこで辞めて後は悠々自適に『60歳以降は世の為、人の為』と思っておりました。今でも世の為、人の為ということで、東北大学の教授をやったり、NPOの理事長をやったり、経産省のお仕事をやったり、色々行っておりましたが、突然カルビーというポテトチップス屋のオーナーから「お前偉そうにしているから、一回カルビーの社長をやらないか」と言われました。「社長は十分やりましたから、社長はやりません」と申し上げると「社長じゃなければ会長でもよいからやれ」という話をいただき、会長職を受けました。これも最初から社員に「4年以上はやらない」と宣言しました。「4年(がくる)前に不祥事が起こって会社が問題になったら、私が責任をとって辞めるし、業績が悪かったら辞める」ということを宣言し、去年の6月24日に会長になりました。
兼ねてから私は、「会社というものはこうしないといけない」というものを持っておりましたので、(これも今日の本題ではないのですが)コーポレートガバナンスをしっかりやろうと決めておりました。したがって、「私の言うことやること気に入らなかったら、私はこの仕事を受けない」と結構我儘を申しました。まず、企業統治の一番基本的なことを最初に行いました。どういうことかというと、コーポレートガバナンスとか企業統治とか申しますが、その一番のキーは何かと言うと、会社というところは、株主がいて、ここに経営というものがあります。取締役や取締役会というのがどこにあるかというとここにあります。日本はもちろん、プライベートな会社、上場していない会社どころか、上場している会社までこれを勘違いして、ここで切っています。したがって、サラリーマンなどは特にそうですが、平社員からずっと上がってきて、取締役になるというのがサラリーマンのなれの果てというか、ここまで行くと頂上です。
このように理解しているのですが、企業統治というのは全く異なり、ここで切ります。それは至極当たり前のことです。会社というものは株主がおり、株主というのは、株主が1人か3人しかいないケースもありますが、上場企業というのは沢山います。それこそ何万人という株主がいます。それも何万人もいると、株主は、本当は特定多数のはずですが、不特定多数の会社も沢山います。今朝ネットで株買って夕方売る人も沢山います。したがって、株主というのは、意外と不特定多数ではないかと思います。
そうすると、不特定多数の人は、この経営など監視できません。従って取締役というものを株主が選んで、取締役がその経営の監視をするということになります。従って、取締役会の仕事は何かというと、取締役が経営を監視することが仕事です。これが本来の会社の基本だと思います。ところが実際のところはそうではありません。下から上がってきた者がここに皆おるわけです。このような者に取締ができるかというとできません。だいたい、「取締」と書いてあるわけですから、誰かを取り締まる仕事です。誰を取り締まるのかというと、取締役というのは経営を監視する、これを取締るのが取締役です。ところが実際、この基本をやっていない会社があまりにも多いです。
カルビーという会社は今非上場ですが、非上場であろうが、上場であろうが、そのようなことを原則ですから、「きっちりやる」と申しました。そういうことで、従来ここにおられた方は全員お辞めいただき、社外取締役が5人、全部社外に出したら会社のことが解りませんから、本当は1人でもよいと思うのですが、私と社長と2人が社内から上がっている取締役になりました。残りの5人は社外で、社外もただ有名な人を集めても意味がないので、取締役として、きちんと経営を取り締まれる人をということで、今は結構時の人になりましたが、先日も財界賞をいただかれたキッコーマンの会長の茂木さんという会長、それとカゴメの会長の喜岡さん、3人目は日本IBMの会長の(一昨年の末に社長から会長になられた)大歳さんと、あと1人は一ツ橋大学の一条教授、もう一人はアメリカのペプシコという4兆円規模の会社のアジアパシフィックの社長であるティム・ミンゲスという、5人を選び取締役にし、いつも経営を監視していただいております。そうすると、従来のなれあい取締ではなく、大変厳しい取締を行っていただいています。
私は一応会長ですから、取締役会の議長を行っていますが、ビクビクということはありませんが、非常に厳しいことを言っていただき、お陰で会社は随分良くなってきています。食品会社というのは、どこの会社もあまり儲かっていなくて、儲からないことが当たり前と思っていらっしゃるようですが、食品会社というのは、本来は儲かるのが当たり前です。そういう儲かる体質、体制を作るように頑張っています。こういう時代ですから売上は微増ですが、利益は前年の2倍か3倍の利益になっていますし、来年度も相当また利益が上がると思います。そういうことで、本来は退職して「世の為、人の為」と思っていましたが、カルビーというポテトチップス屋さんの会長をしております。ポテトチップ屋といっても、日本のスナックという市場ではシェアが48%のダントツの会社です。売上が約1500億位の会社です。これまではあまり儲かっていなかった(過去形ですが)という会社です。
最初10分から15分くらい、本題に入る前のお話をさせていただきます。まず「初めに」というところです。皆さんも会社を経営されていると思いますが、会社には社是やらなんやらあると思います。私は、会社というところの基本理念はこうだと信じているものがあります。基本だと思います。カルビーでは、強制はしないけれども皆が気に入れば、私が辞めた後、このような事をビジョンとしたらよいと事あるごとに説明しています。企業というのは、皆さんもそうだと思いますが、ビジネスをしていれば、ステークホルダーズ=利害関係者、に対する責任があります。我々は利害関係者に対する責任を持ちながら仕事をしています。では利害関係者とは誰だというと、大きく分けると4つしかありません。その順番の大事なものから並べてその利害関係者に対する責任をしっかり果たしていくということが企業としての役目だと思います。そうするとその利害関係者の一番はだれかというと、顧客と取引先です。
我々の物を買ったり食べたり、我々のサービスを使ってくれているそういう顧客が一番です。次が物を仕入れたり、サービスをしてくれたり、物を売ってくれたりする取引先です。そういう人たちへの責任をしっかり果たしていかねばなりません。顧客第一というのはこの10年、20年皆言っていることですので特に珍しくありません。
2番目は従業員と従業員の家族です。我々は自分達と一緒に働いている従業員とその家族に対する責任が非常に強くあるということです。
3番目は広い意味でのコミュニティーです。コミュニティーとは何かというと、皆さんが住んでいる街、福岡というところ、九州、日本、もっと広げて世界、地球、資源、環境などです。従って、CO2であろうが何であろうが、我々は環境に対して責任を持っているということです。
4番目は、当たり前ですが、株式会社では株主です。この順番が大事です。株主が大事だと決まっているではないかと言われるかもしれません。それはそうかもしれません。しかし株主を一番にした会社は上手く行きません。ですから、この順番でしっかりやっている会社は上手くいくと思います。
コミュニティーなど関係ないという会社もあるかもしれませんが、そういう会社は上手くいかないだけです。この順番通り、このように優先順位を置いて、そういうステークホルダーズから尊敬・称賛されてなおかつ愛される会社になるということが大事です。これは広い意味での会社の在り方だと思います。
私は、勤めておりましたジョンソン&ジョンソンでは、社長を9年、その後最高顧問というのを1年勤めました。(最高顧問などやらねばよかったと、今だに思っておりますが、それは別として)ジョンソン&ジョンソンは世界最大のヘルスケアカンパニーで売上が6兆4千億、税金を払う前の利益が約2兆円、税金を払った後が1兆3千億という会社です。昔はGE(General Electric)が一番でしたがすっかり元気がなくなって、今では世界でいろいろな意味でジョンソン&ジョンソンが一番良い会社ではないかと言われています。仕事の内容は、病院向けの薬、また(病院向けが殆どですが)医療機器や材料、医療機器といっても放射線のMRIなどの大きな機械はやっておらず、どちらかといえば、手術室などで一回使ったら廃棄するような使い捨てのものが多いです。あとはみなさんも御承知のバンドエイドや、お嬢さんやお孫さんが使用しておられるアキビューというコンタクトレンズや綿棒などの類です。全部合わせて6兆数千億という会社です。
日本のジョンソン&ジョンソンは、薬は別会社になっておりまして、医療機器の会社とコンタクトレンズの会社とコンシューマー向けのバンドエイドなどをやっている会社の3つから成り立っています。売上は、6:3:1で、一番有名なものが一番売上は少なく、このビジネスそのものはあまり付加価値が高くないのでそれほど大きくありません。世界でどのくらい成功しているかというと、76年連続の増収です。歴史的には122年になりますが、122年の中で増収できなかった、要は売上が下がったのは過去2回だけです。25年連続の増益です。(ここら辺りはどこでもあることかもしれません)また47期連続増配しております。ちなみにニューヨークに上場したのが1944年、65年前です。65年前に一株買った人、その当時の株価は37.5ドルです。100円で計算すると3750円です。それを配当もすべて再投資して、今まで持っていたら37.5ドルは、現在の価値では94万ドルです。3750円の投資が65年かかりましたが9400万円となるわけです。それ位の優良会社です。ただ、今週発表されますが、昨年はかなりしんどかったとして、おそらく増収増益はこの76・25で切れているのではないかと思います。47年の分は48年になると思います。過去100年間の平均成長率が11%強と、毎年右肩上がりで成長してきた会社です。
日本のジョンソン&ジョンソンは出発点が小さい訳ですから、まだまだ大したことはありませんが、売上が3500億位ではないかと思います。過去20年間の平均成長率が18%ですから、毎年18%ずつ右肩で上がってきました。世の中からどのように見られているかというと、アメリカのFortune誌の企業調査では、世界で最も称賛される会社の5番目にランクされています。またバロンズのオンライン調査では、世界で最も尊敬されている会社の1番にランクされています。1年前です。アメリカの一般市民の人気投票ですが、米国の企業好感度調査で、2005年までは7年連続で1位、2006年、2007年は2位、2008年からまた1位に返り咲いています。2位以下は上がったり下がったりですが、ジョンソン&ジョンソンは過去10年くらいコンスタントに市民からの人気も好感度も大変ある会社です。
ジョンソン&ジョンソンのこの成長を支えている最大の要因は、皆さんの手元にある、このCredoです。
Our Credo「我が信条」→ジョンソン&ジョンソンホームページに掲載
これは日本語では「我が信条」と申しておりますが、これは私が作ったわけではありませんので私が自慢しても仕方無いのですが、世界中で最も素晴らしいと言われている企業の理念です。わずか1枚です。(表裏になっているか解りませんが)表面には日本語、裏面には英語が書かれております。私が冒頭に申し上げましたビジョンはこれに則っていまして、これに書いてある通りに会社の経営を行ってきて、たまたま上手く行ったということです。どこで何をやってもこの通り行えば、上手くいくと信じています。中身は先ほどの通りです。
1番目は顧客に対する責任を果たしていかねばならいということ、2番目は社員に対する責任、3番目は地域社会=コミュニティーに対する責任で、4番目は株主です。1943年に(この信条が)出来ましたから、もう既に67歳です。ジョンソン&ジョンソンには実はこれしかないので、これをベースにいろいろな言語に訳され、会社の経営を行っています。ではCredoとは一体何かというと、Credo is Everythingです。ジョンソン&ジョンソンにとっては、このCredoが全てです。会社というところは、こういう理念や社是というものを持っているところは多いのですが、なかなか良いものがありません。社員から見るといまいち、よく解らないものが多いです。
毎年、新入社員をとりますと、(ジョンソン&ジョンソンは沢山とりません。せいぜい50人くらいです)数万人の学生がエントリーします。ちなみ、カルビーでも1万6千人のエントリーがあります。そこそこ人気はあると思います。ところが問題は、一体学生達は何を目指して、何を気にいって、エントリーし、会社に入ってくるのかというと、そこがいまいちよく解りません。会社の名前が有名とか、月給が高いとか、本社が良いところにあるとか、そのような基準で入ってくる訳ですから、入って3か月もすると、3分の1から4分の1の人が「何だ、思っていた会社と全然違う」と思いだし、1年くらいすると「こんなもんあかん、よそへ行こう」とすぐに新しい会社を探しだします。これは本人の問題ではなく、会社の問題です。会社というのは本々このようなものだ、私の会社はこういう会社です、こういう経営をします、それを気に入れば入社し、気に入らなければ入社するなとはっきり示さねばならないと思います。
世の中というものは本々そういうものであるはずです。大学に入ります。○○クラブがあります。うちのクラブはこういうことをやろうとしているから、好きな人は入部してください、というものです。ところが会社に入るときは意外と目的が違っていたりします。それはどうしてかというと、会社の方が「この指とまれ」のこの指をはっきり指さないからだと思います。ですから、どのような小さい会社でも「私達はこういうことをやりたい」ということを示さねばなりません。今から何十年か前に、ソニーという会社が誕生したとき、「ソニーはこういう会社にしたい、だから好きな人は集まれ!」と言ってやったはずですが、今やソニーもはっきりしなくなってきました。だから会社もだんだん悪くなっていくのだと思います。「この指」と言ってはっきり示すべきだと思います。ところが、「この指」と言って示すけれどもそれを一冊の本にしても誰も読みません。だからこのような簡単なもの(信条)にしています。
後ほど簡単に説明しますが、このCredo(我が信条)というのは、すでに読まれて方もいらっしゃると思いますが、実は大変良く出来ています。大変良く出来ているから良いわけで、良く出来ていなかったら、この指とまれと言われても「この指」がどんな指かよくわからないということになります。ジョンソン&ジョンソンの中では毎日使います。皆さん経営者なのでお解りと思いますが、会社の経営というのは、日々「判断」や「決定」の連続です。これが経営者の仕事です。ところがその片方に、判断したり決定したりする「基準」がなければ、その都度異なった判断や決定が生まれます。今日は天気が悪いから判断が違ったり、人によって判断や決定が違ったりします。常務が言っていることと社長が言っていることとバラバラで、一体この会社は誰が何を考えているのかということになります。十人十色ですから、いろいろな人がいればいろいろな意見が出てくるのは当たり前です。
しかし少なくとも、このような物事の考え方で経営しているというものがしっかりあれば、この「やじろべえ」のようなものがあれば、それをベース(基準)に判断出来ます。従って、ジョンソン&ジョンソンではこのCredoをベースにいつも判断しようとしています。もちろんこの中に完璧な答えがあるということではありません。一旦ここに戻って(Back to our Credo)、皆で議論するということが大事だということです。そうでない限り、(当たり前ですが)ビジネスというのは結果を求めるものですから、結果を求めるが故にこれ隠しておこうとか、これは欠陥品だけれども全部回収すると会社が大変なことになるから隠そう、とか言うことになります。ですから、片方にこのような基準がない会社は本当に日々危険ですし、正しい判断が出来ないということになります。これは毎日(ジョンソン&ジョンソンでは)社員が使用しているものです。
アメリカの会社ということもありますが、ジョンソン&ジョンソンのCredoの特徴的なことはこの3つです。1番目は行動可能(Actionable)だということです。2番目は測定可能だということです。殆どのケースは測定が出来ます。地球の資源を大事にしなければならないと書いてありますが、資源を測定出来ます。会社の中でどれだけ紙を使用しているか、どれだけ電気を使っているか、測定しようと思えば測定出来ます。測定出来ますから、その結果を毎年トレース出来ます。昨年はどうだったか、一昨年はどうだったか、来年はどうするかという測定が出来ます。本日時間の関係もありますので、簡単にしか読みません。
このCredoというのは、文章は全部で25です。4章に分かれてますが2章目の従業員に対する責任というのが一番長くて、ここには9つの文章が入っています。ということは、会社というものは、いかに人が大事かということが言えるのではないかと思います。 また、この4つに分かれている各々の段の一番上は、これは誰に対しての責任だということが書いてあります。
1番目の顧客に対する責任というのは、ジョンソン&ジョンソンの商品と皆さんが取り扱われている商品はおのずから異なりますので、ジョンソン&ジョンソンの商品というのは、我々の商品並びにサービスを使用してくれる医師、看護士、患者、母親、父親をはじめとする全ての顧客に対する問題であると確信すると書かれています。このCredoの講演をすると、「このCredoを使用してもいいですか?」という質問をよく受けますが、どうぞご利用ください。別にパテントでもなんでもありませんが、改めて会社が許可するというものではありません。お使いになるのは勝手です。かなりの会社でご使用されていますが、これを沢山修正されて、この原型をとどめておかないくらい変えてしまわれる会社がありますが、大概が失敗しています。これはこのまま使うのが一番良いと思います。使ってみて、不都合なところは後で変えればよいと思います。
顧客に対する責任には、2.3.4.とあります。顧客一人一人のニーズに応えるにあたり我々の行う全ての活動は質的に高い水準のものでなければならない。ですから、品質というものが大事でこれが一番だということです。次に、適正な価格を維持するため我々は製造原価を引き上げる努力をしなければならない。どういうことかというと、コストリダクション、コストを下げるということです。特にこれからの日本の企業は、これをしっかりやっていかなければダメです。日本の大概の企業はこれ(質の問題)は大体合格です。しかし質的に高い水準のため、コストがやたらと高く、競争が出来ない状況になります。給料が下がり、世の中も不景気になり、デフレになるというのは当たり前ですから、価格競争力をドンドン付けていかない限りは、会社というのは生き残れないということははっきりしています。顧客からの注文には迅速かつ正確に応えなければならない。 これは流行りのサプライチェーンマネジメントで、注文したけれども物がないというのはいけないということです。だからと言って、必要以上に沢山持っているのもいけません。
最後は少し異なるのですが、我々の取引先には適正な利益を上げる機会を提供しなければならない。 私は最初のスライドで、顧客と取引先と称しているのはそこです。我々がビジネスを行うときは、仕入れたり、売っていただいたりしています。そこに対して、「いやいや会社の状況が悪いから・・・」と、それこそ何年か前のゴーンさんみたいに、とにかく安ければよい、「おたくの会社がつぶれても良い」というやり方は、長い目で見たときに必ずしも上手くいくとは思いません。ただ、その機会を提供するわけですから、そのあと無駄遣いをしようが何をしようがそれは関与しません。ただ、ある程度リーズナブルな利益が上がるようにしないといけないということです。
2番目は従業員に対する責任です。我々の第2の責任は世界中で働く男性も女性に対するものである。 社員の一人一人は個人として尊重され、その尊厳と価値が認められなければならない。 社員は安心して仕事に従事できなければならない。赤字にしておりますが、後ほど説明いたします。 待遇は公正かつ適切でなければならず、働く環境は清潔で整理整頓されかつ安全でなければならない。 こういうことが書いてありますと、オフィスであれ、工場であれ、これに基づいて事業を行っています。アメリカの本社にはこれだけを監視している人もいます。年に2回くらい日本に視察にやってきます。視察して悪いところを全て指摘し、半年後にまた視察に来ます。
ジョンソン&ジョンソンの中には、これには具体的には書いておりませんが、たとえばオフィスの場合は一人当たりの平米数が決まっております。オフィスの環境で、スプリンクラーのついていないオフィスには入れないとか、いろいろな意味で社員の安全を大事にしています。社員の家族に対する責任を十分に果たすことができるよう配慮しなければならない。
これも日本でワークライフバランスと言われています。これは私が勝手に言っているのですが、ワークライフにバランスなんかありません。あんなものをバランスというから皆さんがライフを大事に出来ないのだと思います。ライフ(私生活)の方が優先で、仕事は次、としないと結局はワークライフバランスと言って、皆さんもそうだと思いますが、休みが取れないとか、家族や子供との約束を反故にしてしまうとかいうことになります。ワークライフバランスというのは、ライフの方が大事で、ライフを優先にするのだという風に考えないといけないと思います。
能力ある人々には雇用能力開発及び昇進の機会が平等に与えられなければならない。 平等というのは、皆一緒ということではありません。この平等というのは、良く出来る人には沢山、そうでもない人には少ない、ということになります。
我々は有能な管理者を任命しなければならない。 そしてその行動は公正かつ道義にかなったものでなければならない。 社員は安心して仕事に従事できなければならないとありますが、これがどういう意味かというと、日本語で書いていると意味が分かりにくいのですが、英語で書くと非常に良く解ります。They must have a sense of security in their jobとなり、勝手に首にするなという意味です。世の中が不景気になって、もう雇えないから、「はい首、3分の1を整理」などという事は勝手にするなということです。やはり社員に「いつ首になるか」という不安を与えてはいけないということです。
最後にもう一つ書かれている、その行動は公正かつ道義にかなったものでなければならないというものです。これは日本語にするのが難しかったのでこのような表現になっております。意味はだいぶ違います。これがあるので、コンプライアンスや法令遵守というものがいちいちこれらの文章の中に入ってこないわけです。法令遵守などは当たり前のことです。Their Actions must be just and ethical. これも一見解り易そうで解りにくいもので、これを日本語にした人が本当にどれだけ解っていたのかと思いますが、あれ以上の日本語はなかったのかもしれません。自分達の行動は公正で倫理的でなければならないということです。ですから、ビジネスというのは基本的に倫理観を持ってやらねばなりません。これが一番大事だということです。倫理観のない人は無理です。もう21世紀の時代ではビジネスは出来ません。もう一つ、just というのがありますが、これはjust moment とかに使用されるjustではなく、just という形容詞があり、どういう意味かというと「神の前で正しい」という意味です。従って、自分達のやっている行動は神の前で正しく、倫理的でなければならない、ということで、コンプライアンスとか法令遵守とかいうのは問題外のことでして、それらを守っていくのは当たり前のことだという事がご理解いただけると思います。神の前と言っても、日本には沢山神がいて、特に出雲あたりに行くと沢山神様がいるので、どの神様か解らないということなります。従って日本語にした場合何が正しいかというと、これは「お天道様がいつも見ているよ」ということになります。その「お天道様」というフレーズもここ長年使用されていないので、いろいろな意味で日本というのは倫理観というものが下がってきているのではないかと思います。
3番目、コミュニティーに対する責任です。ここには4つの文章がはいっています。我々の第3の責任は我々が働いている地域社会、更には全世界の共同社会に対するものである。 我々は良き市民として有益な社会事業及び福祉に貢献し、適切な租税を負担しなければならない。 税金はきちんと払わなければなりません。ですから会社が儲からないというのは、こういう意味からいうと罪なわけです。我々は社会の発展、健康の増進、教育の改善に寄与する活動に参画しなければならない。 我々が使用する施設を常に良好な状態に保ち、環境と資源の保護に努めなければならない。 これは1943年に作られたもので、少しずつ文章が変わっていますが基本的にはほとんど変わっておりません。ですから、環境と資源というのはこれだけ大事なものだという事を、こんな昔から言っているということは、やはりこれを書いた人は偉いなとつくづく私は思います。
4番目になりますが、最後に、当たり前ですが株主は大事だということです。ですから、しっかり配当して株主には還元しないといけません。我々の第4のそして最後の責任は会社の株主に対するものである。 事業は健全な利益を産まなければならない。 我々は新しい考えを試みなければならない。 研究開発は継続され、革新的な企画は開発され、失敗は償わなければならない。 新しい設備を導入し、新しい施設を整備し、新しい製品を市場に導入しなければならない。 逆境の時に備えて蓄積を行わなければならない。 と24番まであります。この順番通り上から(1番から)24番までコツコツやって始めて、これらの全ての原則が実行されて始めて株主は正当な報酬を享受することができるものと確信する、ということになります。
これがアメリカだけでなく、世界で一番良く出来ていると言われているジョンソン&ジョンソンの信条、社是、理念です。これを会社として使用していますが、ここは今日は簡単にしかお話しません。「これを日々本当に行っているか」、「松本さん偉そうにCredo、Credoと言っているが、やってることと言っていることが違うのでは」、という事(の調査)をCredo Survey=日本語で言うと「アンケート」を行います。年に1回定期的に行います。質問は毎年同じ80項目位に対して、1,2,3,4,5で答え(評価し)ます。それを毎年行い、昔は紙に書いて行っていましたが、今はWEBを使用して実に簡単に行っています。世界中に社員が11万人強いますが、(このアンケートの)参加率は99%です。日本の場合はいつも100%です。「やりません」という人は一人もいません。理由は毎年同じですし、やり方は簡単ですので、今や20分から25分あれば出来ますので全員やっていますう。それを年に1回行います。最近は結果も直ぐに帰ってきます。いろいろな切り口で帰ってきます。これはマネジメントだけといって、データですからどのようにでも切ることが(抽出することが)出来ます。管理職だけ、もしくは男女別、○○事業部だけとか。そういうもののいくつか抽出して、「この部分は、我々は弱いからなんとかしよう」など、多くても1つか2つを選んで具体的なアクションプランを立てて実行しています。こういう当たり前の改善サイクルを実施しております。
このCredo Surveyの大きなポイント、目的は2つです。一つは社員の経営者に対しての通知簿です。もちろん経営者もアンケートを行いますが、社員の方が多い訳ですから、「あんな偉そうなことを言っているけれども本当にやっているか」という社員の経営者に対する通知簿です。2つ目は、これは通知簿ですが、昇進給与、昇格などの人事評価には一切使用しないということです。それを使用すると間違ったことが起こるので使用しません。皆さんの所で、いろいろな事を行われる時に、下から上の評価というのは結構大事です。会社というのは上から下は結構評価しておりますが、下から上を評価してもらい、率直に下の人間が上をどう評価しているかを聞くことが大事です。俺は一生懸命にやっているのに、うちの社員は、部下はけしからんと言いだすと、会社というのは良くなりませんから、甘んじて下からの評価は素直に受けてそれを改善するというのが大事です。こういう改善するというのは、昨日より今日、今年より来年、と良くなることが大事ですから、社員からめちゃくちゃに言われようが何をしようが、そのような事は苦にしないという事が大事です。
Credo Surveyの結果というのはこういうものですてきますが、良くやっているとか、何とも言えないとか、全然良くないなど、こういうものが沢山出てきます。ここから(例えばこの一つから)判断して、自分達の弱みはここにあるから、これを改善するためには具体的に何をしようか、という事を議論します。これも一つの例です。これは他の国とか世界の標準と比較しています。日本はどちらかと言えばあまりよくありません。いつもそうです。どうしてかというと、日本人は昔から、学校の5,4,3,2,1という評価に慣れていて、ご承知のとおり5が10%、4が20%、1が10%、2が20%、3が40%ですから、皆まん中に固まってしまします。日本人にこういうアンケートを行うと、このような正規分布になります。外国で行いますと、大概がこうなります。これが日本とアメリカの元々ある、国民性ではなく、教育の問題(違い)だと思います。従って、日本でアンケートを行ってこのように評価される場合、(回答は)奇数にしてはいけません。必ず偶数にしてください。一番良いのは、1,2,3,4です。(中間は)2と3しかありませんから、ちょっと良いのか、ちょっと悪いのか、どちらかに行かざるを得ません。このようになりますが、1、2,3,4,5と、間に3を入れると皆3を選び、次に4と2をいれて1と5はつけないということになります。そうすると結果として、「何がなんだかよくわからない」ということになります。自由記入欄もあり、これは結構大きな一つの冊子になっていて、誰でも見る事が出来るようにしております。
これがジョンソン&ジョンソンのCredo 我が信条の中身です。さて、今日の本題は何かというと、ここには沢山の社長さんがいらっしゃると思いますが、ここにおられる社長さんの中には「社長は悪くないぞ」と本当はそう思っていらっしゃる方もいると思います。「いや~社長はつらい」等と言われる方がいますが、「嫌なら辞めたらいい」といつも言っています。社長は辛いし、これから世の中厳しいし、資金繰りもあれもこれも・・・と確かにそのとおりですが、嫌なら辞めるしか手がないと思う訳です。社長業を9年やっており、その前もPresidentですから、実際は社長業のような事をやっておりましたので、かれこれ15年もやっておりますが悪くないです。
何故かというと、まず月給が高いです。皆ヘコヘコしてくれますし、どこに行ってもゴマすってくれますし、ホテルに行けば支配人が名刺を持って飛んできますし、同じ値段で良い部屋に泊めてくれますし、悪くないですよ。会社でも外でも「社長、社長」といって、大体皆ヘコヘコします。私は社長と呼ぶな、と言っておりましたので、会社では「松本さん」とか、名前が晃ですので、「晃さん」としか呼ばせていませんが、しかし本当は社長と呼ばれて気持ちいいかと聞かれると、良いに決まっています。ですから社長というのは、しんどい事ももちろんありますが、悪くないです。私は、皆に「社長になれ」とお勧めします。しかし、中には(今日はおられないと思いますが)ロクでもない社長がおられて、そういう社長がいると会社は悪くなります。
ここから先は私の勝手な意見ですから、「あいつ勝手なこと言っているな」と思いながら聞いていただいたらよいと思います。まず一番目に、どうしたら社長になれるかということです。それには大きく分けてこの2つがあると思います。
一つはやはり、社長になる為の基本的な素質・資質・素養とかいうものです。もう一つは、もっと技術的なもので、知識とかスキルとかというものだと思います。ではまず、素養とか資質とは何かというと、(私が勝手に言っている内容ですので半分信じて半分疑ってもらっても結構です。)倫理観がない人はダメです。21世紀は確実にこれが必要です。ちょっとごまかしてもいいのではないかというような人はダメです。倫理観というのはこれから益々大事になると思います。
2番目は地頭です。地頭とは、九州大学法学部とか東京大学○学部というのは、あっても無くてもよく、本当に良い頭が必要だということです。学校の試験というのは、所詮は記憶力とクイズですから、記憶力の良い人とクイズが上手い人は必ず大学は良い大学に入れます。現に、東京大学であろうが、何大学であろうが、記憶力が良ければ相当いけます。司法試験もあれは記憶力の問題です。しかし、ビジネスは記憶力が良ければ、クイズが上手ければビジネスが成功するかというとそういう事はありません。ビジネスは皆さんに日々やっておられると思いますが、ビジネスというのは大体答えがあるかないかも解らないものがビジネスです。その答えがいくつあるかも見当がつかないものです。一つの問題にぶつかった時に、どんなことができるか、オプションはいつも2つも3つもあり、そのどれを選んだら上手くいくか、それはやってみないと解りません。従って、本当の意味での地頭が良くない限り、社長になってもビジネスは上手くいきません。
3番目はコミュニケーションです。人と人とのコミュニケーションです。これは必ずしも社内だけでなく、社外、お客さん、銀行、仕入れ先も含めて、コミュニケーションが出来ないとダメです。コミュニケーションとは一体何かというと、理路整然としゃべることがコミュニケーションかというと、そういうことでは決してありません。ではコミュニケーションとは何だろうと考えると、コミュニケーションは一言でいうと、人から好かれることです。コミュニケーション能力のある人というのは、(皆さん自分の胸に手を当てて考えてみてください)結局人から好かれている人のことです。ビジネスをやっていると、社内外の人から好かれないとダメです。もちろん怖がられるというのもある程度必要ですが基本はそこです。やはり、人から好かれない人は、社長には向きません。これは「社長って悪くないぞ」、では「どんな人が社長になれるか」という話で、向いてない人はならなければよい話です。世の中というのは、皆社長でなければならないという事はありません。
4つ目は、やはり実績が必要です。あの人は良いとか、良い人とか言っても、特にある年齢以上になると、過去にある程度の実績がなければダメです。過去にある程度の実績のある人は尊敬されます。
ではこれだけあれば社長になれるかというと決してそうではなく、次に何が必要かというと、知識やスキルが必要になります。必ずしも1つ足りないからダメと言っているわけではありません。私が勝手に申し上げていることではありますが、今から申し上げる内容を最低でも持っていなければ、やはりトップマネジメントという事は出来ません。どうしてかというと、例えば、どこどこの工場長というとこの人たちは製造に関することがしっかり解ればよいのですが、社長というのは、基本的にはジェネラリスト、幅広く色々な事が出来なければいけません。幅広いから、全てにおいて、たとえば法律に関して言えば、弁護士であるとか、そういうことを言っているのではなく、大事なことは、その本質とか、そのココロが解っていないとだめだということです。要点さえ解っていればそれはそれでよいのではないかと思います。
ところが、これくらいのことは知らないといけないという意識がないと、実は沢山足らないということになります。この3つは、私はMUST、絶対に必要だと思います。法律、法律といっても本当にその要点さえ解ればよいと思います。例えば、超大会社でも、なんとか自動車とかでも、良くこれをミスするわけです。どういうことかというと、法律の基本的なエッセンスが解っていないからです。
例えばリコールです。リコールとは一体何か、その本当のココロさえ解っていれば、リコールは何にも怖くありません。リコールは恥ずかしいことですが、その恥ずかしさを甘んじて受ければ何でもないことです。ところが問題が起こった時にそれを隠そうとする。リコールは何かというと、世間に「恥ずかしいことを起こしました。すみませんでした。来社していただいたら、新しい部品に変えます」というのがリコールです。リコールは何が良いかというと、一旦宣言してしまえば、責任はあなた(消費者)達にある、ということです。皆さんに売った車(つい最近トヨタもアメリカでやられましたが)にこういう欠陥がありました、この欠陥は私の責任ですので、来ていただいたら直ぐに部品を取り換えます。もし無視して取り替えに来なかったらそれは消費者の責任ということになります。そういう基本的に便利なこと、(独占禁止法など)個々の法律は難しいのですが、基本的な事が解っていないと、どうしても経営者というのは失敗します。それ以上は弁護士や専門家に頼めばよいと思います。
2番目に経理です。財務の知識は必ずしも必要だと思いませんが、会社というのは基本的には数字でやっていますので、自分の会社のこと、他人の会社のこと、仕入れ先のこと、売り先のこと、基本的な事が解っていないといけません。ですから経理というのは大変大事です。
3番目が人事です。人事というのは大変大事です。何故かというと、人が全て関わるから大事です。今日は詳しいことはやりませんが、人事とは何かというと、1番目が採用です。採用一つとっても大変難しいです。2番目は何かというと開発、教育です。人の教育・開発です。3番目は待遇です。待遇というのは給料のこともあるし、昇進、昇格の問題もあります。4番目は日本語で言うと大変難しいのですが、Retentionということです。要するに、良い人はちゃんと置いておく(保持する)ということです。良い人に辞められたら会社は困ります。この良い人をどのようにして放さないかということです。5番目は、ダメな人は辞めていただくという、この5つです。英語で言うと、Recruit(採用)、Development(人材開発・教育)、3番目がCompensation、4番目がRetention、5番目がTermination。 このスキルをしっかり持っていただきたいと思います。会社というのは、社長さんが一番大事だと思いますが、ナンバー2は誰かというと、私の考え方では人事のトップ私が会社を経営するときの右腕は人事部長、人事のトップです。この人がいないと絶対に会社は上手くいきません。良い人は取れませんし、良い人が育てられません。良い仕組みも作れません。良い人はどこかに行ってしまいます。悪い人だけが残ってしまいます。
4番目から12番目は簡単に並べます。参考のために見てください。特に順番に拘っていません。これくらいのものの基本だけ、ココロだけ、要するにエッセンスだけは知っておくべき内容です。マーケティング。セールスというのはこのマーケティングの一部という考え方もあります。しかし日本はどうしても販売といって、このセールスのトップは日本の会社では偉い位置にいます。本当はこっちの方が偉くあるべきだと思いますが、それはそれとします。次が情報、ITです。財務。製造。品質。セールス(販売)。総務。スキルとして必要なのが、プレゼンテーションです、これから何かを発表するとき、また社員に説明するとき、演説する時に、それが下手ですと社員は何言っているかよく解らない、うちの社長はいまいちよく解らないけど、仕方ないから聴いているという事が多いです。単に広い意味での一般教養です。私は一般教養でも歴史が一番大事だと思っています。歴史というのは、いろいろな事を教えてくれると思います。
最後13番目が何かと言うと、英語です。ただし、英語は上手な人、下手な人がいますが、英語というものに対して、極端なアレルギーさえなければ良いと思います。
相当高齢の方がいまさら英語と言ってもなかなか大変です。若い時は頭に入りますし、上手くなります。自分ができなくても、皆さんをEncourageすることが必要だと思います。なにせ、日本には世界中の2%しか人が住んでいません。今日本は1億2千700万人しかいません。世界には61億人の人がいます。所詮2%しかいません。これから、出たり入ったり、場合によっては会社によっては、世界に出かけて行かなければなりません。いつごろからか解りませんが、共通言語はもう英語でいいのではないかということになりました。どうしてかというと、他の言語よりも易しいからだと思います。日本語なんかよりははるかに易しいです。これから世界の人口の中に占める日本の人口は限りなく1%に近づきまして、日本の人口は8千万に向かってこれから、急速に落ちていきますが、世界の人口は80億から90億に向かって増えていきます。従って日本は所詮1%だということです。 1%の中で勝負するのか、残り99%を捨てるのか、残りの99%を捨てないのかというのは、マネジメントのDecision(決断)だと思います。
従いまして、社長を目指そう、TOPマネジメントを目指そうとするとこれくらいのことは必要だという認識がまず必要です。不得意なところからちょこちょこと学んでいかなければなりません。私はよく言いますが、不得意なところでも、Always not too late、いつも遅すぎるということはありません。この中で何か一つを目指そうとすれば、たとえば品質を目指そうとすればそれはジェネラリストではなく、スペシャリストになる訳で、そのような人は世の中には当然必要です。しかし社長というのはジェネラリスト、基本的には何でもできなければならないと思います。
社長になるのはそれほど難しいとは思いませんが、その後、社長として成功しないといけません、(皆さんのお手元にあるかどうか解りませんが)その、どうすれば社長として成功出来るかというスライドです。皆さんの中にも(この中にも)社長は何人もおられると思いますが、社長業というのは大変です。とにかく、良いこともありますが、社長というのは会社に対して全体の責任を持っていますので、会社を傾けるのも良くするのも社長の責任で、非常に大きい役目です。従って、社長というのは1日24時間ですし、1年365日ですから、公私の区別はつけ難いです。どちらかというと公の方に重点を置かざるを得ません。社長というのはどういう責任があるかというと、これは最初のCredo通りです。最初のビジョン通りで、自分達のステークホルダーに対して責任を持っています。一番は顧客です。2番は従業員と従業員の家族、3番目は広い意味のコミュニティーで、4番目が株主です。この順番通り大事です。この順番を間違えたらいけないと先程申し上げました。それ以外に社長として成功するためのいくつかのポイントがあると思いますが、今日は時間の関係もあり、2つぐらいご紹介したいと思います。
1つ目が、Commitment(コミットメント) とAccountability(アカウンタビリティ)です。Commitmentとは何かというと、これは昨年総選挙がありましたが、要するに、私はこういうことを約束しますというManifestoマニフェストです。Commitment はビジネス上の約束です。個人的に約束するときは約束、英語ではPromise でも何でもよいと思います。政治家が政権を取ったらこういうことを約束しますというのがマニフェストです。では、社長(社長には限りませんが)ビジネスの世界での約束はCommitment になります。約束したら、このAccountability 、すなわち結果に対して責任を取らないとダメですということです。Accountability はよく新聞に出ます。そこには「説明責任」と書いてありますが、説明責任ではありません。Accountability は本来「結果責任」のことを言います。そうすると、例えば社長は誰に約束するのかというと、取締役会に対してCommit(コミット=約束)します。社長の部下は何人かいます。(財務部長や人事部長、製造部長、販売本部長など)社長のDirect report(直属の部下)は社長の約束に基づいて、Commitします。
これらの人達は又、自分の部下にCommitさせます。これは当たり前のことですが、こういう文化がない会社が多くて、従って、社長も約束しないし、誰も約束しない。私がカルビーに行った時、カルビーも案の定(こういう考え方のある会社は少ないので)このような約束は何もありませんでした。売上が千数百億あり、利益が何十億とか百億と言って、それが達成できなくても皆知らない顔をしています。世の中が変わったからと言って、誰も何の責任も取りません。もちろん昨年まで私は特に何もやっておらず、非常勤の取締役でしたので、月に1回くらいしか行きませんでした。株主総会が開かれ、世の中がこれだけ変わりましたというのですが、それは当たり前のことです。環境が変わらなかった年など一度もありません。環境が変わったことなど、何のExcuse(言い訳)にもなりません。環境が変わっても約束したことを果たすのが経営者です。それ位の先見性をある程度もって、環境に対して早く対応をしないといけません。それを平気で、世の中の環境が変わりましたとか、リーマンショックがなんだとか言います。そんなことは承知で、何もあなたが起こした訳でも何でもありません。会社の経営というのは基本的にはそういうことですから、Commitmentを作るという作業は大変なことです。
私は今、2010年のCommitmentを作る作業を行っておりますが、Commitment を作ろうと思うと、会社にいて、(カルビーには社長室や会長室などありませんが)そんなところで考えてみても解らないものです。自分で考えてみた結果を現場に行って検証しないと、何とも数字の出しようがないですし何もやれません。会社の経営というのは、厳しいところは大変厳しいですので、自分のCommitment を作るべきだと思います。上場であろうが非上場であろうが会社というのはそういう所です。そういうことをやらないから、自分の部下も何もやらない、だから誰も責任を取らない、上から下まで何も責任がない世界(会社)になり、時々結果が良ければ、結果オーライで済ますということになります。ところが結果オーライというのは、世の中右肩が上がっているときは、誰がやっても結果オーライです。時々ダメな人だけダメになるのですが、今のような世界では、相当厳しくやらないと上手くいきません。私は今会長ですが、会長(私)はまず取締役会でCommitします。これだけ絶対やりますと約束します。その後、私と社長との間でこのCommitmentをやります。社長は副社長もしくは直属の部下に対してやるという文化を今カルビーで作っています。
その次に大事なのは、(Commitmentをしますから、出来もしないことは言えません。)達成可能な目標を設定することです。 ここで大事なことは、私は今から20年前からずっとやっていますしやらせていますが、達成可能な目標というと、例えば100やります(100億でも、利益でも売上でもいいです)と言った時、中には110やってくる人がいます。一方で90しかできない人もいますが、差は同じように10です。会社は一方を褒め、一方をダメだといいます。私は両方ダメだと言います。1年先の数字も解らない人は駄目だと言います。だから110も90も同じように評価しません。ところが一般的には110を評価して90を評価しません。そうするとやたら楽観的な人は、最初から多めに言いますし、悲観的な人は少なめに言います。会社がそういう事をやっているというのが解ると、だんだん100いけるけど90にしておこうということになります。従って、期中に何度も見直しをしなければなりません。大概は3月末が決算の所が多いと思いますが。
今月どうなる、来月どうなる、とそんなことに使っている時間はありません。他にやることは沢山あります。ですから会社にとって、(社員に)目標を立てさせるというのは非常に難しい仕事です。会社の中で、1年で最も大変な仕事は、来年の計画、目標を立てるということで、一番難しい仕事です。私はどう言っているかというと、100から101の間に収めろと言います。これはもとはと言えば、伊藤忠商事に入社して数年後に当時の本部長から言われたことで、それをずっと受け売りにしています。私は「今期は計画を上回りました」と言って随分怒られました。お前見たいな先の見通しがない奴はだめだ、偉くならないと言われました。
会社というのは、上から見れば、皆が100やってくれれば何の心配もいらずそれでお仕舞いです。ところがある人は、こんなで、ある人はこんなと、ガタガタですから、しょっちゅう皆集まったり、足したり引いたりしないといけません。最初から100と言ってきっちり100出来る人は少ない。しかしこういうのはカルチャー、教育です。やらせていくとだんだん良くなります。前進します。非常に真剣にやります。だから私いつも100から101の間に収めろと言います。100は切るなと言います。100と101の間です。来年のことはまだ分かっておりませんが、カルビーでは私は今期は一応途中からですが、この9か月間の間でこれだけきっちりやると言った事は、きっちりやると思います。ですから、30年くらいこれを練習していますから、滅多に間違いません。過去10年間でも、正確に言うと、102になった事はありますが、この中に収めてきました。絶対にこの中に収めようと思うと大変な仕事です。ですから私はほとんど会社にはいません。しょっちゅう現場に出て現場のことを耳にしています。聴いていかねば上手くいきません。
もう一つは、会社の中では評価というのが大変大事です。あいつ好き嫌いがないかと聞かれれば、もちろんあります。社長とか会長とかやっていますと、それほど極端な事はありませんが、それでも好き嫌いは当然のことながらあります。しかしそれと評価とは全く何の関係もありません。評価は正しくやらなければなりません。従って評価はフェア、公平でなければならないということです。公平でなければならないことは皆解っていて、ではどのようにやっているかというと、結局何か解らないから、好き嫌いになってしまっています。
目標をこのように定めてこのような事を行いながら、評価というのはこれに対して、まず1番目がシンプルであるということ。人の評価というのは出来るだけ簡単にするのが良いです。あれもこれもと言うなということです。大会社に行くと相変わらずそうですが、何か沢山、目標管理などあれもこれも書いて、肝心の数字を見失っているケースがあります。そういうものをベースに評価しますから、どのようにして評価したらよいのか分らなくなっています。
2番目がdigital 要するに数字であれということです。数字でやるのは非常に難しいこともありますが、それも極力数字で行わなければなりません。公平にやろうと思うと数値しかありません。イチローなんてあかん、という人はいません。白鵬なんて全然だめだ、相撲取りとしては5番目だという人もいません。何故かというと勝った人は強いからです。普通の人だとショートゴロなのに、イチローだとセーフになるからヒットとして認めないという人もいません。ヒットはヒットです。文句あるか!ということころです。ホームラン性のライトフライを打ったら、イチローがフェンスによじ登って取った、それを本来はホームランだということもありません。ライトフライはライトフライです。それでお終いです。プロセスみたいなものは大事ではないとは言いませんが、しかしそれを重視すると、本当のフェアさを失ってしまいます。ですから、球場が狭いとか広いとかそういう事は知ったことではありません。ホームラン50本打った人はやはり偉いのです。ここですってんころりん、転ばなければ浅田真央さんは金メダルだったと言ってもダメです。○○だったら、というタラの話ではありません。上手くいって金メダルを取れば金メダルです。荒川静香はあの時の一発勝負で金メダルを取りましたが、いまだに前回のトリノオリンピックの金メダリストと言われ、それは死んでからも言われます。やはり、ビジネスは結果なのです。
もう一つ、人の評価というのは、Contractual にやらねばならないということです。Contractual とは何かと言うと、後出しじゃんけんはダメだということです。後から決めるというのはダメです。人の評価というのは最初から決めておかないといけません。例えば、ボーナス評価ということになると、今年1億儲けたら、いくらのボーナスを出すと最初から決めておくべきだということです。儲けてから、会社がどうだったからなんだかんだとか、君は一生懸命やってないからどうの、他の人がやったからこうの、というのはダメだということです。そうすると、時々これは少し変だったなという事はあります。それは時々ありますが、会社が1年こっきりでおしまいということであれば、それは仕方がないということになりますが、そうではなく、また来年もありますから、この評価の基準を変えるしか手がありません。しかし基本的には、人の評価というものは、SimpleでDigital でContractual にしておかねばなりません。
今何を話しているかというと、社長として成功しようと思えば、これくらいの事は最低やらなければならないという事を話しているのですが、時間の関係上、社長の成功の話はここら辺にしたいと思います。次に大事なのは何かというと、今、成功する社長は何かという事をお話しましたが、 次に大事なのは、「持続」です。社長になって、1年、2年と上手くいくのは何でもないことです。問題は続けないといけないということです。仮に社長を10年間やっていたら、10年間ずっと成功しないとダメです。その為にはどういう事が必要かという事を話します。
1番目は先ほど説明しましたのでここでは詳細は省略します。やはりしっかりした軸を持つことだと思います。しょっちゅう気が変わったり意見を変えたりして良く解らない、飲ませたら面白いがそれ以上は何もない、いったいうちの社長はなんだ、というのではダメです。やはりしっかりした軸を持たねばいけません。私はゴルフが下手です。何故下手かというと、軸がないから下手なのです。解っていて下手なのは仕方無いです。しっかりした軸を持たなければいけません。そうすると会社というところ、私が社長をやっていたジョンソン&ジョンソンというところは実に楽なところです。どうしてかというと、ジョンソン&ジョンソンはあのCredoという軸が自分の軸であるわけですから、あの通りやっていればよいという訳です。社長をやって1番易しい会社は世界中でジョンソン&ジョンソンだと思います。そういう軸が必ず必要だと思います。1番目はしっかりした軸を持つということです。
2番目は何かというと、私はこのように言っています。20で、50で、30だ。と。一体何かというと、経営を行っていてよくある事が、(今勤めている会社もそうですが)今年のことばかりを言っているわけです。カルビーという会社は良い会社ですが同じです。今期の決算を云々といって、終わったらホッとして、来期の決算に走る。そのようなことでは持続した成功はしません。持続した成功を英語で言うとSustainable Success とか、Sustainable Growth と言います。永続的に上手くいかないと意味がありません。そうすると、今期のことで精一杯で、来期のことは知ったことではないというのではいけません。ですから、今から1年先のこと、今期ではなくて今から12か月先のことには、エネルギーを20%位しか費やすなということです。13か月から24か月、要するに今から1年後から2年後のことに50%位の頭=エネルギーを使い、2年目以降のことに30%のエネルギーを使う、このバランスで大体間違いないと思います。3年後、5年後、100年後、そんな先のことを考えても仕方ありませんし、だからと言って目先のことを考えてもキリがありません。ですから、歩くときにそこら辺りを見ながら歩いているのと同じで、このように先の方を見てもキリがないですし、このように足元だけを見ていると何かにぶつかってしまうので、先ほどのバランスで間違いないのではないかと思います。
3つ目は、高い目標を持ちましょうということです。高い目標を持って会社を経営しないと会社は上手くいきません。これはスタンダードというのですから、会社によって異なりますし、(目標が)変わっても構いません。しかし皆さんの各々の会社で(ここには100人位の方がお越しになっていると思いますが)、そういうもの(目標)を持ってやっていらっしゃいますか? ちなみに、ジョンソン&ジョンソンはどういう会社かというと、大雑把に申しまして、会社の損益計算書(PL)というのはこういうものです。
ジョンソン&ジョンソンは借金がありません。銀行の借入金や株の売買による、利益・損益(よその会社の株は一切持っていません)は一切ありません。変な投資をしない、買うときは会社もろとも皆買うという会社です。単純に言うと、ジョンソン&ジョンソンのPLは基本的にはこのような形です。売上を100とすると、製造原価は30です。粗利益は70です。販売並びに一般管理費(要するに経費)が30です。開発が10なので、それらを引くと、税金を払う前の利益が30で、税金が3分の1で10だから残り20残ることになります。6兆4千億売ると、最後に1兆3千億残るというのは、こういう計算からです。この中で、売上の100は100です。しかし売上は上がり、原価は下がった方が良く、そうすると粗利益は上がり、経費はいくらか下げる、開発費はもっと使うと開発費は上がり、税金は(脱税しないけれども)いくらか下がります。そうするとこれ(残り)がいくらか上がります。これがジョンソン&ジョンソンのスタンダードです。このスタンダードはビジネスによります。製造原価が皆30でなければならないという事はありません。ものによれば、50、60となることもあると思います。しかし、自分の会社のスタンダードはあるのかというと、実はないところが多いです。そういうやり方をしているから、売らないより売った方がいいよな、ということになってしまうのです。
ここにおられる方は偉い人が多いと思いますが、昔自分が営業部長とか営業マンをやっていらっしゃった方は、胸に手を当てて考えていただきたいのですが、よく「(売値を)下げないと売れません」とおっしゃっていませんでしたか? 私がジョンソン&ジョンソンの社長をやっていた時は、(もちろんビジネスによって異なるのですが)粗利益が60%以下のビジネスは一切やりませでした。どうしてやらないかというと、60%以下のビジネスが悪いかというと特に悪いとは思いません。しかし、60と言って何かを決めないと、60以下、59の仕事を取ってきてそれを許可すると、57、56、55、48、とどんどん下がっていきます。従って絶対に「(60以下に)下げない」と言うと、営業の人は「下げないと売れません」と言います。ですから「売れなかったら売らなくてよい」としました。そうしていないと、特に営業の人たちは、「どこどこの会社が下げてきましたから」とウソを言うに決まっています。「それなら売らなくて良い」と言った方が、営業はしっかりやってくれます。ですから、これが40でも30でも20でもよいので、決めたら妥協しないことが大事です。
この妥協しないという基本的なスタンダードがないと会社は上手くいきません。これを決めるのも守るのも社長の腹一つです。特に今のように、どんどん値段が下がっていく中で、これをどうして乗り切るか。これが易しいと言いませんが、だからと言ってそのまま(下げて)やっていると会社は一向に儲からず、株主は配当が貰えず困る、銀行は目をつけてお金を貸さないようにするということになります。企業というのは、やっている限りは、どんなに苦労してでも何してでも利益が出ないと話になりません。
ちなみにユニクロの柳井さんは、やはり非常に簡単にこういうことをしっかり守っています。彼の原点は何かというと、まず良いものをつくるというところにあります。その良いものとは何かというところで、彼は本当に苦労していると思います。彼が一番苦労するところはそこだと思います。しかしそれが決まってしまえば、彼のビジネスモデルは実に簡単です。要するに、「これはいくらで売れるか」ということです。今流行りのヒートテックは、大変売れています。あのヒートテックというのは、昔からあります。ミズノなどが防寒として、パッチの薄いものを作っていました。昔は高かったので、皆買いませんでした。「ゴルフに行くのに5000円も6000円もする下着は買えない」と言って我慢していました。しかし、柳井さんは「男性でも女性でも、あれはいける」と考え、生地を東レに上手に作らせて、1500円なら売れると考え売り出しました。彼は、1つ目に「この商品なら売れる」というものを求め、2つ目に「この金額なら売れる」という金額を設定し、3つ目に「売値の半額で作る」と決めてヒートテックを売り出しました。2つ目まできたところで、1500円の商品が1000円でしか作れない場合は恐らくやりません。半値の750円で作れなければやらないということです。会社は違いますが、基本的には似たような考え方です。社長あるいはトップマネジメントがビジネスを持続して成功させようと思えば、このような考え方を持っていなければ上手くいきません。
社長業は悪くない、しかし社長をいつまでもやるわけにはいかない、では「社長のやめ方」です。社長は、大体皆辞めません。大会社の場合は、最初から6年とか決めてあり、6年したら嫌でも交代という会社が多いのですが、そうでもないと社長というのは辞めるタイミングが難しいです。今日用意した内容は、社長は悪くないということ、また成長し、それをいかに持続するかということと、そして最後に社長のやめ方はということです。社長というのは悪くないので、皆中々辞めません。もちろん世襲制の所は「うちの親父はいつもまでも辞めないな」と思っています。私は世襲制は嫌いです。というのは、世襲するほど世の中は優しくなくなったからです。父親より息子さんが優秀な場合は世襲してもよいと考えますが、そうでない場合、父が息子の面倒を見ようなどというところはダメです。今はそのような世の中ではありません。自分より息子の方が優秀だとはっきり解っていれば、世襲してもよいと思いますが、そうでない限りは、会社は他人に譲った方がはるか上手くいくと思います。
辞め方というのは、なかなか難しいです。ですから、社長になったときに決めておくか、もしくは自分はいつ辞めるとはっきり宣言をしておくことです。もう少しやりたいと思っていても(宣言しておくと)自然に辞めることができます。しかしそれでも日本の場合はなかなか(社長は)辞めません。社長という職は、事件が起こったときは辞めたらよいと思います。また業績が下がったときも、自分で腹を切ったら簡単です。腹を切ると言っても本当に腹を切るわけではありませんから。日本は切腹文化です。日本では腹さえ切れば、翌日から誰も何も言わなくなります。そういう腹切り文化は江戸時代からだと思います。その昔はなかったと思います。相変わらず変な文化ですが、日本の文化ですから仕方ありません。
一番良いのは、いつ辞めるのかを(例えば8年で辞めるとか)、社長になったとたんに宣言することです。辞めないのは何故かというと、「気持ちがいい」ということと同時に、日本の場合は「辞めても良いことがない」という事があります。日本では社長を辞めたら貰うものももらえないので、社長の後に会長になったり、会長の後は取締役、相談役、顧問になっていつまでもやっているというケースがあります。最大の理由は、払うものを払わないからだと思います。会社というのは、社長が辞める時は、払うものはしっかり払って、それで「さようなら」とした方が、会社にとっても、本人にとっても一番良いと思います。そうでない限り、長い間一流会社の社長をやっていても、老後はみすぼらしい生活になりがちです。この辺りが外国の会社と随分違うと思います。
私は、たまたま一昨年の3月末に定年を迎え社長を辞めました。今までの慣例に従ってジョンソン&ジョンソンの最高顧問になってください、給料もたっぷり支払ますということで、会社には滅多に行きませんでしたが、しばらく顧問に就任しました。しかししばらくして、これが一番良くないことだと思いました。折角会社の業績を上げて、「松本さんは良くやった」と言われていたと思うのですが、いつまでも顧問をやっていると、「松本さんはいつまでも何もせずに金を貰っている」と言われるに決まっています。ですから、本当は定年でぴったり辞めてそれで終いにすれば良かったと思います。Retirement is Retirement だと自分で言っておきながら、変な欲を出して、今では大変後悔しています。それで1年経って、会社が「あと1年」と言ってきましたが、「それは良くない」と言って断りました。しかし日本の場合しっかり払うものも払わないので、いつまでも会社に残って、会社の交際費を使ってゴルフをしたり、ご飯を食べたりという事が多いですが、しかしそういうのはやめて、その代り会社の方も、すっぱり辞めた人にはそれなりのものをしっかり払って、お金で解決するというのが一番良いと思います。
今日はぶらぶらと私の勝手なことを申しあげました。ろくでもないことを申し上げ、顰蹙を買う点もあったと思いますし、経済学者でも何でもないのでどれだけ理論的かというとそれも疑問かもしれませんが、基本的には自分で会社を経営してきて、会社というのはそれほど難しくはない、しっかり軸を持ってやれば会社というのは上手くいくと思っています。長い間ご静聴ありがとうございました。
添付資料(印刷用にご利用ください)
- 20100125report.pdf (475.5 KB)
講師:松本 晃氏(まつもと あきら)
ジョンソン・エンド・ジョンソン㈱前最高顧問
1972年京都大学農学部修士課程修了後、伊藤忠商事㈱勤務。1993年にジョンソン・エンド・ジョンソン㈱代表取締役 エチコンエンドサージュエリー事業本部長就任。1999年に同社代表取締役社長就任。2008年~2009年同社最高顧問を歴任。2009年6月よりカルビー㈱代表取締役兼CEO。また、厚生労働省中央社会保健医療協議会専門委員、国立大学法人東北大学客員教授等の公職も務める。- 日時・場所
2010年1月25日(月)
14:00~16:00福岡商工会議所 505号室
博多区博多駅前2-9-28JR博多駅博多口より徒歩約10分
地下鉄祇園駅5番出口より徒歩約5分
駐車場は有料の立体駐車場がございます。



















